第五話
『ガンッ!!』
「ぐはぁっ!」
扉を破り、勢い余ってゴロゴロと転げ出るマキタ。
立ち上がると、そこには自分の書いた小説の世界が広がっていた―――
ここはビルの屋上だというのに、見渡す限りゴミ・ゴミ・廃棄物の山!
1990年、もう一度日本が戦争に負けた後の2010年が舞台。
戦勝国のゴミ捨て場を化し、ビルほどの高さにまで街に廃棄物が積み上がった。
ダストパンクの世界。
「ダスト・パンク・ベイビーズの世界だ……!!」
感傷に浸っている時間は無い。とりあえず、マキタは叫ぶ。
「スモーキン・ドッグさん! はじめまして! 突然ですが、助けて頂きたく……」
目の前に広がる、ビルの屋上を侵すほどに積みあがったゴミの山。そこにはスモーキンドッグと、仲間の少年達が――――いない。
「……!?」
誰もいないのだ!
「なっ……えぇっ!??」
マキタは一瞬何が起きたか分からず思考が停止するが、しかしすぐに気づく。
すぐに扉の向こうから、シラヌイがやってくる! スモーキンドッグはいないが、とにかくここは自分の書いた物語のはずだ。ならばシラヌイは―――――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シラヌイは扉の脇から用心深く手を伸ばしてそっとドアノブを捻ると、一扉を蹴破り外へと躍り出た。あの失礼な男を、スモーキンドッグと共にハチの巣にしてやるつもりだったが――――
「………!」
誰もいない。スモーキンドッグも、マキタでさえも。遠くでゴミや山の表面が崩れる金属音が響くだけ。シラヌイは正面、左右、開けた扉の裏、と流れるように銃を構えてゆくが、誰もいない。
(……上か……?)
今自分が出てきた入口の、コンクリート天井。シラヌイは銃を握る手と反対側の脇下からリボルバーを突き出し同時に振り向く――――が、やはりいない。
「………」
シラヌイは天井のへりに捕まると、器械体操のようにクルリと回って屋根に登り、辺りを見回す。ゴミ山と、そこに埋もれつつある廃墟の街並みをぐるりと見渡すが、スモーキンドッグも、マキタもいない。
「どこに行った……?」
(音を立てるな……音を立てるな俺……!!)
が、実はマキタはシラヌイが天井に登った入口の裏で、両手で口を覆いながらカタカタと震えていた。
(正面、左右、扉の裏、天井、、、次にシラヌイは、辺りを見渡しながら裏へ……!)
彼にはシラヌイがどう動くのか分かっていた。自分で決めたのだから!
シラヌイは辺りを見渡しながら裏に回る。マキタはその様子をビクビクと伺いながら、そっと前に出て、正面入り口に回ると――――
「誰か助けてえぇぇ!! 殺されるぅぅーー!!」
「!?」
彼は力の限り叫ぶと先ほど出てきた屋上の入口に飛び込み、同時に扉のカギを閉めた。
「こんなトコで死んでたまるか! 絶対生きて、元の世界に帰って……」
俺は、硬派な……硬派な作家になりたいんだよっ!!