第四話
「……?……キミ、何故私の名前を……?」
「知ってるのは名前だけじゃないぜ……メビウスさんよォ」
マキタは話を繋ぎながら、思い出そうとしていた。今、この瞬間が、第何稿のどのシーンなのかを。
「へぇ……?」
アイコに持ち込んでいたこの小説『ダスト・パンク・ベイビーズ』は、少しずつ内容をいじって第9稿まで出し直しをしていた。厄介なことに、改稿ごとに内容も変えているが――――
「メビウスさんあんたの………」
「……?」
「あなたのバストは、106センチだ!」
そう言って、マキタはメビウスの豊満な胸部を指さしてみせる。
「なっ……!?」
メビウスは一瞬面食らったが、すぐにキッと睨み返し、マキタの"股"を鷲掴みにする。
「はあああうっ!!?」
あまりの激痛に、その場に崩れ落ちるマキタ。
「少し面食らったけど……自分の立場を分かっていないようだね。もっとお仕置きが必要かな?」
(ぐぅっ……よし………第7稿以降………!!)
メビウスは男の設定だったので、"胸囲"が正しいが。設定上、メビウスの胸囲は120センチもあったのだ。もう少し細身にしようという事で、第7稿からは106センチにしていた。
マキタは何とか立ち上がると、また階段をのぼりながら続ける。
「それにしても……本当にリボルバーしか持たないんですね……M360、ガバナー、スコープ付きマニューリンまで……"スモーキンドッグ"相手とあって随分本気じゃないですか……!」
メビウスの目じりが僅かにヒクつく。彼女はマキタへの見識を改め始めていた。
「………キミ、一体何者……?」
(よし………やっぱり第9稿! この世界は………アイコに持ち込んだ、最終稿だ……!)
「他にも色々知ってますよ………例えば……」
「いや………もういいや」
そう言って、メビウスは下げていた銃口を再びマキタの背中に向けた。
「………!」
マキタの頬を冷や汗が伝う。いつの間にか階段は途切れ、最上階に到達していたのだ。
「"崖"に着いちゃったからね。 レミング君……!」
「くっ………!」
だが――――ここが第9稿なら扉の向こうには物語の主人公、"スモーキンドッグ"がいる! 作中最強の能力を持つ、クールでハードボイルドなイケメンだ。
「くっ……!」
こうなったらスモーキンドッグの信頼を得て助けてもらうしかない。初対面……というか、まだ対面すらしていない彼に殺し屋から助けてもらうなど虫の良い話だが、こっちだって"作者"なのだ! 会いさえすれば―――――
「せいぜい、弾避けとしての役目を果たしてね………バイバイ」
「あっちょっ……!」
『ドガァッ!』
「うわっ!」
そして、マキタはメビウスに背中を蹴り飛ばされ、ドアを破って外へと叩き出されてしまった―――