第二十話
「スバル、この人だよ! 私達が見たの!」
「やはり……! マキタ、何故こんなところに……?」
「それはこっちの台詞ですよ! それより早くここから離れて! そうしないと……」
その時だった
『パパパァン―――』
遠くで、扉の向こうで銃声が響く。マキタが閉めた扉をメビウスが破ったのだろう。やはり"粉塵火炎放射"では倒せなかった―――
「くそっ……もう来た!」
「えっ……ちょ、銃声!?」
「おいおい厄介事はごめんだぜぇ?」
「おい待てマキタ! お前、まさか本当に"魔弾のメビウス"と……」
「とにかく、ここからすぐ離れてください! いいですね!! 俺は……ここでヤツと決着をつける」
そう言って、マキタはポケットからタバコ状の何かを取り出す。
「それは……?」
「僕が作った、作中で最も"チートな"アイテムですよ……!」
良く見るとそれはタバコの様だが、桜色の結晶体を紙で巻いて包んでいるシロモノだった。
「戦勝国がおびただしい人体実験の末開発した、脳のリミッターを一時的にぶっ壊す試薬です。名前は『チェリー』」
そしてマキタは"チェリー"を咥え、ポケットからスバルに借りていたジッポを取り出す。
「ライターで炙って気化させ、タバコと同じ要領で吸い込めば発動です。だが『チェリー』はバチバチの国際条約違反な上、使用に耐えうる人間が存在せずに破棄された――――敗戦国のゴミ山の中に」
「マキタ、何故そんな事を……というか、お前が今咥えているのは……それか!?」
「吸えば……99.9%はそもそも体が受け付けない。仮に上手くいっても脳への負荷に耐えきれずに命を落とす。でも――」
マキタはそう言いながら、咥えた"チェリー"の先にジッポで火を点ける。
「よせマキタっ!」
その瞬間、扉が開いてメビウスが飛び出してきた。
「見つけた……!! この瞬間を待ち"焦がれた"よ……スモーキンドッグ……!!」
「ふん、来いよ魔弾のメビウス………!」
マキタは気化したチェリーの煙を深く吸い込み、深呼吸と共に桜色の煙を吐き出す―――――
「……!」
「かかって来い! これはなぁ……俺が"主人公に"なる為の戦いなんだよッ!!」
そして―――――
「ゲェホッゲェホッ!! ゲホゲホゲホゲッホゴホォッ!?」
次の瞬間マキタは激しく咳込み、情けないうめき声と上げて倒れ込んだ。
「………」
「………」
「………」
(あれ……? もしかして……オレ、"チェリー"の適正無いかも……!?)




