第十九話
同じころ――――金属片のゴミ山が続く廃棄処分場の様な場所で、先ほどマキタにザリガニラーメンをおごったスバルと、その仲間ケイ、チヨコの三人がそのゴミを漁っていた。
「この前聞いたんだけどさぁ。昔この国には"ユウエンチ"とかいうのがあったんだとさ」
「知ってる、観覧車があるんでしょ?」
「じゃあ、亜未夢はその、ユウエンチだったのか?」
そう言って、スバルは亜未夢の方に首を振って見せる。
「いや……違うんだよ。ユウエンチってのはもっと広くて……観覧車の他にも、"ジェットなんちゃら"があるんだって」
「ジェット………? 何それ?」
「何か……ものすごい速度で走るトロッコらしい。乗ったヤツは皆手を上げて、泣き叫ぶんだとさ」
「………そんなもの、一体誰が好き好んで乗るんだ?」
「ウチだって知らないよ……でも、ユウエンチではそれが一番人気だったんだと」
「他には?」
「なんか、デカいコーヒーカップの中に入って狂ったように回る乗り物とか」
「…………全然楽しそうじゃないな」
「だよなァ? そうだよなぁ?」
「ジジババ世代の娯楽って、ホント理解できないわ………おっ!チヨコ、これどう?」
ケイが、少し摘まみにくそうに何かを拾い上げて、チヨコに放り投げる。チヨコはそれを空中で器用にキャッチするが
「ケイさぁ……欲しいのはカニ目レンチ! これコンパスじゃん! メンタマついてんのかよ!」
そう言って、チヨコはコンパスを投げ捨てる。
「探し物がピンポイント過ぎでしょ! まだカマロのパーツの方が見つかるっつーの」
「車なんか落ちてる訳ねーだろ! なぁスバル?」
「まぁそう言うなチヨコ。ゴミ山は無限だ。探せば何でも見つかるのが"宝探し"だろ?」
そう言いながら、スバルが何かを見つける。
「!……なぁ、これ工具箱なんじゃないか?」
スバルがゴミの中から工具箱を引張り出してチヨコに見せると、彼女は目を輝かせ飛んでくる。
「まじで! さっすがスバル!」
スバルとチヨコは宝箱でも見つけたかのように、嬉々として箱のロックを外してゆく。ケイも渋々といった様子でやってくる。
「あるといいな。 チヨコの親のカメラを……直せる道具が」
「"ニガン"カメラだよ!」
チヨコはそう言うと、首から下げたニ眼レフカメラを嬉しそうに掲げてみせる。
「コイツを直してさぁ、汚いこの街飛び出して、写真家になるんだ!」
「ムリに決まってんじゃん………フィルムだって無いのに」
「うるさいケイ! ぶっ飛ばすぞ!」
「オッパイが重くてぶっ飛びませーん。ツルペタのチヨコには分かんないよねぇ?」
「ハッ! デブなだけだろ?」
「なっ……これでも50キロないんですけど!」
「また始まった・・・」
スバルは呆れた様子でため息をつく。
「………?」
しかし彼女は同時に何かに気付き、チヨコとケイから目を離して聞き耳を立てる。
「「やんのかこんのっ……」」
一方チヨコとケイは互いの胸倉を掴み合い、今にも殴らんと同時に声を上げるが―――――
「待て」
スバルが静かに、しかし強い口調で二人を制する。ゴミ山の中から"どこでもドア"の様に顔を覗かせた、錆びついた扉を睨みながら。
「「……!」」
すると、勢いよく扉が開き――――
「あれ……スバル……さん…!?」
顔を出したのは、マキタだった。
「あぁ~!? 昼間のゲロオヤジ!」
「ゲ……ゲロオヤジ……」




