第十八話
その時、メビウスは天井に貼り付けられたあるものを見つける。
「斗或製粉所」と書かれた大きな小麦粉の袋。雑にガムテープで貼られており、今にも天井から落ちてきそうだ。
(……粉塵爆発を狙うもり…?)
「あははっ! 理科の実験ね!」
粉塵爆発。小麦粉に限らず粉末上のものが密閉空間に充満すると、引火によって連鎖的に粉末が燃えて爆発につながる現象だ。
『パァン!』
だが、メビウスは躊躇なくその袋を撃ち抜く。弾ける様に広がる小麦粉の粉塵。
「さて、爆発するかなぁ……?」
メビウスは不敵な笑みを浮かべながら銃を乱射して見せる。銃口から火を噴くが、爆発は起こらない。
「正解は『何も起きない』でした。粉塵爆発なんて、よほど条件を満たさなきゃ起きないファンタジー。次から最低5トンは小麦粉を用意しな。あとは……」
「『密閉』だろ?」
「!!」
『バタンッ』
振り向いた時には、マキタが屋上へとつながる階段の扉を閉める瞬間だった。
そしてその脇には火の付いたロウソクと、圧縮空気と小麦粉がたっぷりと密閉された3連のパイプが、メビウスの方に向けられていた。
「チィッ!!」
『ゴォウッッ!!』
粉塵爆発の現象を応用した、簡易型火炎放射器!!
次の瞬間パイプから圧縮された空気と小麦粉が同時に弾き出され、ロウソクの炎を纏い、爆炎がメビウスを襲う。
『パァンッ!!』
だがメビウスは一瞬早く、天井のスプリンクラーヘッドを撃ち抜いていた。
錆びた茶色い水が勢いよく吹き出しメビウスの体を濡らしたその刹那、爆炎がメビウスの体を包んだ―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ハァ、ハァ……やっぱり、ダメだよな……!」
階下から僅かに聞こえる、スプリンクラーの散水音。メビウス相手には、あの程度の攻撃では足止め程度にしかならない事を、マキタは分かっていた。
足止めで十分。マキタは屋上に向かい非常階段を駆け上る。一番初めに、メビウスに銃を向けられながら登った階段だ。だが、今のマキタには勝算があった。
(こいつを吸って、効果が出るまで約15秒……それだけの時間は、稼げたはずだ……!!)
マキタの書いた物語。スモーキングドッグが使うタバコ型の吸引薬『チェリー』が、彼の手には握りしめられていた。
マキタは一番上まで階段を登りきると、屋上へと繋がる扉を勢いよく蹴破った――――




