第十六話
『ターララーラララーララーララーン』
その時、16和音の携帯電話の着信メロディーが鳴り響く。
「………」
ゆっくりと、顔を起こすメビウス。彼女は二つ折りの携帯を取り出すと、横のボタンを押してパチリと開き、電話に出る。
「連絡、遅かったじゃない。ニュースは見た? 目当てのスモーキンドッグには会えず、代わりに治安警察の小隊と鉢合わせ」
その表情は、先程マキタに見せた"ON"の顔になっていた。
「えぇ……勿論殺したけれど、これは一体どういうつもり? 何かのプレイなのかしら?」
『クク……"プレイ"ね。すまんが女に興味はない。情報だって絶対はない。こういう事もあるから、前金を払っているんだろう?』
電話の相手も応える。中年と思われる男性の声。
「まぁね……解放戦線ってのは儲かるみたいね」
「要はネズミ講だ。ピラミッドの上の方にいれば、金は集まってくる。"反政府"はいいぞ? 大義をかざせば何人ブッ殺しても英雄扱いだ。戦争と同じでね」
「快楽殺人者が革命家気取りね。私も中々イカれてるとは思うけれど、貴方ほどじゃあないなぁ」
『ほぅ……どんなシュミなのか、是非一度語り合いたいな』
「悪いけど今は知りたい事があるの。目標地点にパンツ一丁のオトコがいた」
『何だそりゃ………ちなみに、カワイイ系か? それともマッチョな感じか?』
「どうやら私の事を知っていた様で……」
『おい待て、質問に答えろ。カワイイ系の男か? それとも……』
「……逃げられたわ」
電話の向こうで、一瞬の沈黙。やがて男の声色が変わる。
『……逃げられた? "魔弾のメビウス"が? 殺しの現場を見られて? 昼寝でもしていたのか?』
「そう、こんなの初めて。マキタって名乗っていたけれど、何か知らない?」
『知らん……が、別クチで情報だ。亜未夢は近いか?』
「いいえ。……まぁ、見れないことはないけど」
『入口を見てみろ』
彼女は部屋の引き出しから単眼鏡を取り出すと、崩落した扉の前に立ち街の方を覗き込む。覗いた先には、巨大な商業施設、亜未夢があった。
そして、メビウスはあるものを見つける。
「……!!」
亜未夢の入り口に、真っ赤なスプレーでラクガキされた、巨大なメッセージ。丁寧に"サイン"まで書かれており、人だかりができている。
「見つかったわぁ………あんなオトコが、とはねぇ……!!」
「見つかった……? そのマキタって男か?」
「スモーキンドッグについて、クソみたなガセネタをどうもありがとう。報酬は手付の倍、頂くから」
『なっ……一体どう』
電話口の男が話しえ終えるより前に、メビウスは電話を切り、二つ折りの携帯をパチンと畳む。そして不敵な笑みを浮かべる。
亜未夢の入口の壁には、大きくこう書かれていた。
【メビウスへ、あの場所で待つ】
「フフフ……アハハハハッ……!! さァ……待ってなさい……!!」
【スモーキン・ドッグより】――――――




