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第十話


「えぇっ……!?」


マキタは5階まで上がってきて、ここでもやはり驚いた。スモーキンドッグのアジトへと続くはずの、6階へのエスカレーターが崩れて埋まっているのだ。


「もうっ………なん…何なんだよっもうッ!!」


マキタは八つ当たり気味に崩れたガレキを持ち上げぶん投げようとするが、重くて持ち上がらない。駄々っ子のようにその場に倒れ込み、ジタバタと暴れる。


「あああ~~~もう! くそっ……何でだ……何がどうなってんだよォ……!!」


すると――――


「なぁアンタ、大丈夫か」


「え……?」


マキタは振り返るが、誰もいない。


「こっちだ、こっち」


「……!」


よく見ると、物陰から細い腕だけがニュッと伸びている。華奢な腕や声色から察するに、どうやら女性の様だ。その手には"ズボン"が握られている。


「だ、誰ですか……?」


「いいから、まずはこれを履くんだ。………履くまでは……近づきたくない」


言われて気付いた。マキタはワイシャツにパンツ一枚なのだ。これはマキタが現実世界にいた時の最後の恰好である。メビウスと交戦したオフィスでサンダルだけ調達していたが、むしろ奇特な格好になっていた。


「あっ……すみません……」


返事の代わりに、伸びた腕がズボンをマキタの方へ放り投げる。マキタが足を通してみると、ボロボロだが一応洗濯はされているようだ。白い三本線の入った、黒のジャージだった。


「履いたか?」


「えっとあの、履きました……」


するとため息をつきながら、物陰から女性が姿を現した。


「………!!」


腰まで伸びた銀色の髪に、透き通るような白い肌、薄ピンクの大きな瞳。それでいて、日本人的な掘りの浅い、やっと"少女"を脱したくらいの顔立ち。『美人過ぎる○○』など吹けば飛ぶような美人ではないか。


「えっあっ……こんにちは。いや『こんにちは』じゃないか、もう夕方ですよね! スミマセンね……」


「………」


マキタは自分の状況も忘れて挙動不審な挨拶を返す。いぶかしげにマキタを見る彼女は、アオザイの様な、身体の線を伝うデザインの白いワンピース姿だ。深く入ったスリットから膝下まで編み上げたブーツが見える。親指以外の両手の指には、殴られたら痛そうなゴテゴテしたリングをはめている。


「この辺じゃ見ない顔だ。アンタ……名前は?」


「あ、えっと……マキタです。マキタと申します」


「どこから来たんだ? 他の"除局"か?」


「あっ……いや、どこからかっていうと難しい質問なんですけど……」


「……ワケありか。別に答えたくないならいい。ここはそんな連中で溢れている」


「いや、なんていうか、その……あ、そうだ! この上……6階に誰か住んでいませんか!? というか、住んでる筈なんです!」


「いや……この上は随分前に崩壊している。人が住めるような場所じゃない」


「そんな……じゃあ彼は……」


「誰かを探しているのか?」


「えぇ……あの、"スモーキンドッグ"を探しているんです! どうしても彼に会わないといけなくて……」


「……"スモーキンドッグ"ね。名前は知っているが、誰も見た者はいない。それにヤツは街の鼻つまみ者だ」


「えっ……?」


解放戦線(ゴロワーズ)専門の殺し屋だろう? この国の人間でありながら、戦勝国の傀儡(かいらい)政権――――政府(パーラメント)側につく、裏切り者だ」


「え……嫌われている設定になってるのか……?」


「設定?」


「あっいや……でも、とにかく彼に会わなきゃならなくて!」


「"スモーキンドッグ"を見たヤツはいない。知っているのは、"いるらしい"という事だけ」


「本当はこの上に住んでる筈なんです! どうしても会わなきゃ…! 会って、守って貰わないと……」


「守る? 一体誰から?」


「メビウスっていう殺し屋に追われていて……」


「メビウスって……"魔弾のメビウス"か?」


「あっ……そうです! その……」


「クク……あははっ! そんな殺し屋が何故お前を狙う? とても要人には見えないぞ?」


「違うんだ! さっきニュースでやってたでしょう? あれはメビウスの仕業なんです!僕はその現場にいてアイツの顔を見ているから、メビウスはきっと僕を追ってくる! スモーキンドッグならヤツに勝てる筈なんです!」


「はは……裏社会に随分詳しいじゃないか。アンタ、一体何者なんだ?」


「僕ですか? 僕は……」


マキタは言い淀んだ。『この世界は自分が書いた小説の中で、僕は作者なんですけどその世界に転生されちゃいました』なんてツッコミどころが多すぎる。ただこう、端的にそれを表現できるような・・・・


マキタは少しモジモジしながら言う。


「まぁその………この世界の………神サマ………的な……?」


「・・・・」


沈黙。女は憐れむような表情が、マキタの心をえぐる。


「……かわいそうに。頭がおかしくなってしまったんだな」


「いや違うんですって!」


「来い。良いところに連れていってやる」


「えっ……?」


だが、スバルは弁解するマキタを無視して彼の手を引き、どこかに向かい始めた。




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