NO.8 日常への帰還
「戦闘終了だね」
魔法を放った後、鈴菜は静かにそう呟いた。
倒れた呪術師は地面に仰向けで横たわり、その周囲にはいつの間にか魔導大図書館の役員たちが集まり始めている。
「やりすぎですかね? ……あ、そんなことないですか? よかった」
役員たちに状況を説明しつつも、鈴菜の言葉には安堵と疲れが混じっていた。
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手袋を外しながら、鈴菜はぽつりと呟く。
「ふぅ、疲れた」
その瞬間、鈴菜の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。
「スズ姉!」
「え? アヤちゃん、なんでここに?」
驚いた鈴菜の言葉に答える代わりに、アヤメは勢いよく鈴菜を抱きしめた。
「……アヤちゃん。危険だから待っててって言ったのに」
鈴菜の声には怒りよりも疲れと諦めがにじんでいた。
彼女が駆けつける理由はわかっている。毎回心配をかけている自覚もある。
「……逆の立場だったら、私も同じことをしているのかもしれない」
鈴菜の中にそんな思いがよぎる。
アヤメもまた魔導大図書館の役員の一員だ。
だが、彼女と共闘するのは鈴菜にとって心配の種でしかなかった。
高校生以下が魔法を使うこと自体、安全面で疑問視されることもある。
そして何より、アヤメの魔法の扱いにはまだ不安が残る。
だが、アヤメの言葉は鈴菜を少しだけ安心させた。
「あとは役員さんたちに任せてきたよ。だから帰ろう?
……お叱りなら家で聞きますから、ね?」
「……うん。ケガとか、大丈夫?」
「無傷だったよ」
そう答えた鈴菜の顔に、少しだけ疲れの色が残っている。
「今日は急いで夕食を作らないとね!」
「はい! アヤ、お手伝いします!」
無邪気な笑顔を見せるアヤメに、鈴菜は思わず視線をそらした。
「っ……!(小声)満面の笑みは反則だって……」
「?」
アヤメが首をかしげる中、鈴菜はくすりと笑う。
彼女たちの姿は、どこにでもいる姉妹のようだった。
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あの状況の後で、何事もなかったかのように日常へ戻る彼女たち。
だが、その日常が本当に「普通」と呼べるものなのか。
その答えを知るのは、彼女たち自身だけだった。