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No.56 それでも、歩いていた

ーーーーーーー

「……だから」


いつから話していたのか、

自分でもよく分からなかった。


晴のこと。

いなくなったあとのこと。

気づいたら、魔法がそこにあったこと。


整理して話そうとしたわけじゃない。

ただ、気づいたら、

ここまで来てしまっていた。


「……ごめんなさい」


そう言ってから、

何に対しての謝罪なのかも、分からなかった。


鈴菜は、何も言わなかった。


遮らない。

急かさない。

評価もしない。


ただ、そこにいた。


「僕……」


玲音は視線を落としたまま、続ける。


「魔法師になろうとした覚え、ないんです」

「なりたかったわけでも、選んだつもりもない」


指先が、無意識に握られる。


「気づいたら、使えてて」

「最初からあったみたいに、そこにあった」


少し間が空いた。


「……隠してた」

「親にも」

「誰にも」


鈴菜は、ようやく口を開いた。


「今も?」


玲音は、ほんの一瞬だけ迷ってから、

小さくうなずいた。


「今も」


その答えに、

鈴菜は否定もしなかった。


玲音は、息を吐く。


「それが、正しいのかどうかは分からない」

「でも……」


顔を上げないまま、言う。


「もう、失ったあとだったから、

これ以上、何かを壊したくなかった」


言い終わってから、

胸の奥が、少しだけ軽くなった。


それは、

誰かに“聞いてもらえた”重さで、

初めて、下ろしていいものだった。


鈴菜は、すぐには返事をしなかった。

けれど、その沈黙は拒むものじゃなかった。


少しだけ息を吸い、彼女は口を開く。


「……それで魔法師になったなら、

間違ってないと思う」


玲音の指先が、わずかに震えた。


否定されなかった。

正されもしなかった。


ただ、

そうだった、と置かれただけだった。


「選ばなかったって言ってたけどね」


鈴菜は、街灯の影に視線を落としたまま続ける。


「壊さないようにして、

離れないようにして、

隠してまで生きてきたなら」


一拍。


「それはもう、選んでる」


玲音は、言葉を探そうとして、

やめた。


胸の奥で、

長い間絡まっていたものが、

ほどけていく音がした。


「……僕は」


声を出そうとすると、

喉が少し痛んだ。


「それで、よかったんでしょうか」


鈴菜は、首を横に振らなかった。

うなずきもしない。


ただ、静かに言う。


「よかったかどうかは、今じゃ決めなくていい」


そして、ほんの少しだけ視線を向ける。


「でもね」


玲音は、思わず顔を上げた。


「ここに来て、話したのは」

「間違いじゃない」


それだけだった。


それだけで、

胸の奥に残っていた重さが、

すとん、と落ちた。


守れなかったことも。

選べなかったことも。

隠してきた時間も。


全部を連れて、

ここまで来たのだと、

初めて思えた。



しばらくして、

遠くで足音がした。


「おーい、二人とも」


聞き慣れた声がして、

空気が少しだけ現実に戻る。


「こんな時間に何してんだ?」


颯馬だった。


鈴菜は、いつもの調子で立ち上がる。


「話、終わった」


玲音も、ゆっくりと立ち上がる。


天窓ごしに、日の光が差し込んでいた。


鈴菜は颯馬に向かって歩いていく。

玲音も置いていかれないように、駆け出す。


胸の奥には、

まだ痛みは残っていた。


でも、

一人で抱える重さじゃなくなっていた。


歩き出すとき、

足取りは、ほんの少しだけ軽かった。


半歩遅れる癖は、

まだ、残ったままだったけれど。


それでも、

ちゃんと前を向いて、歩いていた。

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