No.53 点と点
玲音が病院へお見舞いに訪れたとき、晴は思ったよりも落ち着いていた。
ベッドの上で背を起こし、いつもと変わらない静かな声で「来てくれてありがとう」と言う。
顔色は悪い。けれど、取り乱すことも、不安を口にすることもない。
それが、彼らしかった。
玲音は、晴に病気について質問した。
晴の説明は短かった。
「原因はわからないって。検査でははっきりした異常は見つからないらしい」
病室を出ると、胸の奥に、小さな違和感だけが残った。
理由は、まだ言葉にならない。
その夜、夕食のあとで、玲音はぽつりと切り出した。
湯気の消えかけた食卓に、箸の音だけが落ちている。
「……友だちが、急に倒れたんだ」
思ったより声が低くなった。
「原因は、まだわからないって」
母の手が一瞬止まる。
眉をひそめるその仕草は、心配というより、何かを測るようだった。
父はすぐには言葉を返さなかった。
少しだけ視線を落とし、考えを選ぶように間を置いてから、静かに尋ねる。
「その友だちは……魔法に関わる人じゃないだろうな」
胸の奥が、きゅっと縮む。
玲音は首を横にも縦にも振れなかった。
その沈黙だけで、父には十分だったらしい。
低い声で、言い切るように続ける。
「大切な友だちでも、魔法は悪いものだ」
「余計なことに巻き込まれないように、距離を置きなさい」
忠告のようで、逆らう余地はなかった。
昔から、そうだった。
玲音はうなずいたふりをしたが、言葉は胸に落ちきらなかった。
引っかかる、というより、沈んでいく感覚だった。
――数日後。
図書館の奥、ほとんど人の来ない書架で、玲音は古い医療記録をめくっていた。
紙は黄ばみ、文字はところどころかすれている。
何気なく追っていた視線が、ある一行で止まる。
魔法による、『魔力過敏症候群』。
息が詰まった。
周囲の音が、遠のく。
原因不明の衰弱。
説明のつかない症状。
あのときの、両親の警戒。
ばらばらだったはずの出来事が、静かにつながっていく。
点と点が、線になるのを、否定できなかった。
玲音は本を閉じる。
指先はしばらくその表紙から離れなかった。




