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No.49 沈黙の距離

魔力の霧が薄れる頃、後処理班の足音が近づいてきた。


安全の確保、応急手当、建物の修復。

それぞれが役割に応じて動き始める。


そしてこの後は、情報聴取。

——現実が、戻ってくる。


「待ってください」


鈴菜が一歩前に出た。


「先に、彼と話します。すぐ戻るので」


それだけで十分だった。

後処理班の動きが、わずかに止まる。


鈴菜は玲音の前に立つ。


「……レノ君」


名を呼ばれ、玲音の肩が小さく揺れた。


「大丈夫?」


短い問いだった。


玲音は顔を上げられない。

手を固く握りしめる。


視線は床に落ちたまま、指先だけが、かすかに震えている。


鈴菜は、それ以上踏み込まなかった。

名前も、言葉も、重ねない。


ただ、少しだけ待つ。


「……レノ君」


静かに呼ぶ。


——返事は、なかった。


玲音の胸の奥で、何かが軋む音がした。

呼吸が、浅くなる。


守れなかった。

助けられなかった。

それなのに、彼女は立っている。


何事もなかったように。


「……っ」


耐えきれず、玲音は一歩下がり、踵を返した。


「待っ——」


鈴菜の声が背中に届く前に、玲音は走り出していた。


逃げるように。

追いつかれないように。


視界が滲み、息が乱れる。

どこへ向かっているのかも、分からない。


ただ、この場から離れたかった。


背後で、鈴菜の靴が地面を擦る音がするも、

それはすぐに止まった。


玲音は振り返らない。


振り返ってしまえば、

もう、立っていられなくなる気がした。


足音が、遠ざかる。


残ったのは、

何も言えなかった自分と、

追い越せなかった背中だけだった。

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