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No.47 沈んだ言葉

濁った魔力で溢れる地に踏み込んだ瞬間、

鈴菜の表情が、ほんのわずかに引き締まった。

――嫌な感触だ。


「……小個体じゃない。これは中個体だ」

鈴菜は短く言い切った。

「報告と、違う」


「そうですね。でも、個体反応は一つです」


玲音は周囲を確認しながら答える。

魔力の流れは散っている。

異常な集中も、暴走もない。


――いつも通り。


玲音はいつもと同じように、陽動として魔法を放つ。

それに気づいた呪術師が二人の方を向く。


一歩遅れて、鈴菜は前に出た。

両手を伸ばす。

円すい形の魔法が背後にまばらに現れる。


それが発射され、魔法は呪術師に突き刺さる。

だが、それだけでは呪術師はひるまず、咆哮をあげる。


その瞬間だった。


鈴菜の視界がぐらりと歪む。


「ーーッ!」


鈴菜の足元に、黒い煙が満ちる。

次の瞬間、床から伸びた術が、彼女の脚に絡みついた。


「拘束……!」


鈴菜が即座に、魔法を展開する。

黒いつるのような術はそれに抗うように、さらに密度を増す。


鈴菜は水色の瞳をキッと足元へ見定め、

背後に円すい形の魔法が再度現れる。

矛先は足元のつるへ。


だが、発射されると思われたそれは、

氷のような破片を、乾いた音を立てて落とす。

霧のように、それはふっと消え去った。


「……それ、魔法を……!」

玲音の声が、わずかに震れた。


鈴菜の瞳から水色の光が薄くなって消えていく。

魔法が足元のつるにーー吸い取られる。


その一部始終を見ていた玲音は息を呑んだ。


拘束は脚だけじゃない。

背後、腕にも伸びようとしている。


魔力を削るタイプの拘束。


鈴菜は息を吸おうとして、喉がひくりと詰まるのを感じた。

魔力だけじゃない。

身体の奥から、力そのものが奪われていく。

立っている感覚すら、曖昧になっていった。


鈴菜の背後に居る呪術師が、

さらに襲い掛かろうと鈴菜へ狙いを定める。


玲音は魔法を使おうと手を伸ばす。



――油断した。


小規模案件。

中個体でも単体。

これまで何度も対処してきた。


危険度は高くない。

そう判断した。


魔力の流れに異常はない。

だから大丈夫だと、

“いつも通り”だと判断した。


その“いつも通り”に、甘えた。


鈴菜の表情が一瞬だけ引き締まったのも、

「嫌な感触だ」と言った声も、

全部、見て聞いていた。


それでも。


『中個体でも、反応は一つです』

そう口にして、

判断を鈴菜に預けた。


後ろにいる立場で、

気づく役目のはずなのに。


拘束が腕にまで絡みつくのが見える。

鈴菜の動きが、確実に鈍っていく。


(もし、最初に踏み込んでいれば)


最初の一手で、

牽制を強めていれば。

撤退を提案していれば。


それを選ばなかった。


それを選ばなかった。

楽な方を選んだ。

大丈夫だと思いたかった。


その一瞬の慢心が、

彼女の魔力を削っている。


結果がこれだ。


「……僕の、せいだ」


声にならない言葉が、胸に沈む。

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