NO.41 同じものを見てきた人
梨亜の手の中の本に、玲音の視線が止まった。
一瞬、言葉を選ぶように口を閉じてから、
けれど我慢できなかったように、ぽつりと漏らす。
「……その本」
声をかけられて、梨亜は顔を上げた。
「『魔法使い』の記録集ですよね。
最新版、ですよね?」
驚いたように、梨亜は思わず本の表紙を見る。
「よく分かったわね」
「装丁が違うんです。
第二版までは、背表紙に刻印がなかったので」
そう言ってから、玲音は少しだけ照れたように視線を逸らした。
「……僕、その本、何度も読んでて」
梨亜の表情が、ふっと和らぐ。
「私も。
『魔法使い』って呼ばれてるけど、
実際にどんな存在だったのか、ほとんど分からないのに」
ページをめくりながら、指先で文字をなぞる。
「『魔法使い』が現れた場所には『魔法使いの跡』ができて、
敵を退けて、人を救った――
それだけが共通して残ってる」
「場所ごとに、性質も違いますよね」
玲音が言葉を継ぐ。
「街を守った跡もあれば、
今では観光名所みたいになってる場所もあって」
「希望の証、みたいな扱いね」
梨亜は小さく笑う。
「特に……『不死鳥の魔法使い』の跡なんて、
毎年、祈りに来る人が絶えないって」
「はい!」
玲音は少し誇らしげに頷いた。
「跡だけが残り、誰が何をしたのかは分からない。
それなのに……“救われた”って結果だけが、各地に、残っている……」
「英雄譚みたいに語られてるけど」
梨亜が続ける。
「一人の人物なのか、
それとも同じ名を与えられた誰かなのか、
そこも曖昧よね」
玲音は小さく頷いた。
「はい。
だから学術的には、“魔法使い”は固有名詞じゃなくて、
現象名に近い扱いなんですよね」
梨亜が、少し驚いたように玲音を見る。
「各地に現れて、
呪術師を退けて、人を救って、
そして痕跡だけを残して消える。
――その一連の出来事そのものを、
“魔法使い”と呼んでる、って考え方ですね」
玲音は、言葉を選びながら続けた。
「誰かが見て、
それを“魔法使い”と呼んだ」
小さく息を吸い、
「……それが、すごく好きなんです」
――ああ、同じものを見てきた人だ。
梨亜は目をキッと鋭くし、
サッと玲音へ向けて右手を差し出す。
「玲音くん……よくわかってるじゃない」
「ーーええ、ただの魔法使いオタクですから」
そう言って二人は固い握手を交わした。
二人にはもう余計な言葉は不要だった。




