NO.4 魔高と校長先生
なぜ私が校長先生にチラシを持ってくるよう頼んだのか――それには理由がある。
私は『魔術専門高校』の一年生。魔術専門高校という名前の通り、魔術を専門的に学べる高校だ。通称は『魔高』。魔法専門の学校はないので、『術』の字も省略してある。
なぜ『専門』がついているのに『専門学校』ではないかと言うと、『魔術専門大学』という大学も存在しているからだ。こちらは『魔大』と呼ばれている。
私と魔高の校長先生は、ちょっとした知り合いだ。私が魔高に入る前からの知り合いで、実は私を魔高に推薦してくれた張本人でもある。私はそのことに不満はなく、むしろ感謝している。
魔術は中学生まで習うことが制限されていて、高校から本格的に学べるようになっている。普通の高校もあったけれど、私はそういう高校には行きたくなかった。別に勉強ができないからではない――
校長先生は三澤浩丈さん。四十歳を過ぎていると聞く。魔法師の間では、この魔高を『三澤学園』と呼ぶ大人もいるらしい。
私たち姉妹とは仲がよく、魔高に通うことが決まったときは、寮を貸してもらえることになった。実家は魔高から遠く、何より実家が「帰る場所」なのが嫌だった。
その寮は普通のアパートのような場所で、魔高に通っていない妹も一緒に暮らしていいと校長先生が潔く許可してくれた。今は寮で姉妹二人暮らしだ。
寮には他の人が誰も住んでいない。寮制度はまだ試験段階で、私たちは試験的に一部屋を借りて生活している。寮の利便性や不便性を伝えるのが役割だ。正式な寮を作る際の参考にするらしい。
もちろん寮には食堂がないので、学校近くのスーパーで食材を買い、自炊している。私は料理が好きだ。食べてくれる人が「おいしい」と言ってくれるのが嬉しいから。夕食は妹のアヤちゃんに手伝ってもらいながら、基本は私が作っている。
食材費を節約するために、スーパーのチラシは必須だ。しかし寮にはチラシが回ってこない。だから校長先生の家に届くチラシを見せてもらっているのだ。
校長室のソファに座り、アヤメはスズナと一緒にチラシを見ていた。
「スズ姉、今日はこのキャベツも安いよ!」アヤメはスズナに尋ねる。
スズナは「あ、本当だ……ってアヤちゃん、その顔は……『あの料理』が食べたいってことだね?」と微笑んだ。
アヤメは無意識に目をキラキラさせて「うん!」と答えた。スズナが気づいてくれた「『あの料理』」とは、アヤメの大好きな料理のことだ。
(ああ、今日の夜ごはんが楽しみだな〜!)
だがスズナは、アヤメの様子を見て、体ごと反対側に向いた。その瞬間、ほっぺと耳が赤くなり、小刻みに震えているように見えた。寒いのかもしれないが、少し心配だ。
その時、テーブルを挟んだ向かい側から笑い声が聞こえた。
「コントを見ているみたいだね。仲良しだね〜!ははは!」
校長先生の声だ。
「……いくら校長でも笑い過ぎですよ」とスズナ。
仲の良い友達のような会話が聞こえたので、私はお話を邪魔しないように黙っていた。
スズナは相変わらず背中を向けて震えている。
スズナはこの学校で魔術を勉強しているが、高校生にならなければ魔術を学べないため、私は普通の小学校に通っている。今は二年生だ。
なぜ私が今、スズナの学校にいるかと言うと、ここに来るのが日課になっているからだ。校長先生はスズナの知り合いで、住んでいる場所を管理している人で、いい人だからよく話をする。
スズナは校長先生のことを「尊敬する人で、うちの校長だし、私を助けてくれた恩人」と言っていた。最後の一言は小さな声だったので、正確には分からないけど。
すると隣でスズナが時計を見て立ち上がった。
「それじゃ、私たちは帰りますか。ありがとうございました、チラシお返しします」
「えー、もう少しいていいのにー」
「夕食を作らなければならないし……また明日もおじゃまします」
スズナと校長先生が立ち上がりながら言った。
「そういうことなら仕方ないかー」
校長先生のつぶやきを聞いて、意外と暇なのかなと思ったら、隣にいたスズナが「子供か」とつぶやいた。
「今日もありがとうございました!」私はそう言って、校長室をあとにした。