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NO.37 確かな一歩

呪術師が、咆哮を上げる。


黒霧が膨張し、空間そのものを塗り潰すように広がった。

逃げ場を消すつもりだ。


「……来る!」


鈴菜が一歩、後ろに下がる。

それは退避じゃない。


場を、梨亜に渡した合図だった。


(——来た)


怖さは、確かにある。

けれど、それはもう足を縫い止めない。


梨亜は深く息を吸う。


魔力が、応じるように集束した。

さっきまで“点”だったものが、一本の流れになる。


背後で、鈴菜が静かに魔法を準備する。

視界の外で。


「干渉は最小限」

「通り道だけ、整える」


支配しない。

導かない。


ただ、力が真っ直ぐ届くように。


呪術師の攻撃が放たれる。

黒い奔流。


梨亜は、踏み込んだ。


逃げない。

受け止めない。


——貫く。


光が、爆ぜる。


梨亜の魔力が霧を押し返し、

圧縮され、一本の閃光になる。


鈴菜の魔法が、わずかに干渉する。

威力を足すのではなく、散らさないために。


次の瞬間。


黒い霧が、内側から弾け飛んだ。


呪術師の悲鳴が、途中で途切れる。

存在そのものが、光に溶けるように消えていった。


音が、消える。


残っていた霧も行き場を失い、

跡形もなく霧散した。


静寂。


梨亜は立ち尽くしたまま、

自分の手を見つめる。


胸に込み上げるのは、昂揚じゃない。

誇示でもない。


ただ——確かな実感だけ。


鈴菜が、隣に立つ。


「戦闘終了。お疲れ様」


淡々とした声。

けれど、どこか柔らかい。


梨亜は小さく息を吐き、笑った。


「……ええ」


鈴菜はそれ以上、何も言わない。

ただ、肯定するように静かに頷く。


圧倒的な力で倒した。

けれど、奪ったわけじゃない。


——選び、踏み出し、使い切った。


その事実だけが、

梨亜の中に静かに残っていた。


——そして。


次に差し出されたのは、

言葉ではなく、手だった。


不意に、鈴菜が梨亜へ手を差し出す。


「ようこそ、魔法師の世界へ。

新たな魔法師の誕生を、歓迎するよ」


それは命令でも、確認でもなく。

呼吸を合わせるような、穏やかな招きだった。


梨亜は迷うことなく、その手を取る。


「ええ。そのダンス、喜んで」


鈴菜はほんの少し微笑み、

確かにその手を受け取った。


だが、その状態は長く続かない。


握り返したはずの手が、するりと抜け落ちる。

同時に、梨亜の視界が揺れた。


膝が折れる。

張り詰めていた感覚が、嘘のようにほどけた。


「——ッ、神坂さん……!」


すぐ近くで、鈴菜の声が響く。


必死な表情で手を伸ばす鈴菜が、

梨亜の視界に映る。


——受け止められる。


冷たい地面ではなく、

確かな体温。


「……あなたは……急いで……

まだ、体の……負荷が……」


途切れ途切れの声が、遠くなる。


人の集まる気配。

冷静で、けれど少し焦った声。


不意に、前髪を掻き分ける指が肌に触れた。


冷たくて、心地よくて。


その感触を最後に、

梨亜の意識は、静かに途切れた。

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