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NO.34 縛られない視線

——思えば、最初から、違っていた。


彼女と初めて顔を合わせた日のことを、

私は、はっきり覚えている。


特別な言葉を交わしたわけじゃない。

助けてもらったわけでも、

親しくなったわけでもない。


ただ私は、

魔法師ってどんなものかという興味だけで、

ひとこと言ってやろうと思って、

わざわざ足を運び、

彼女の前に立ち塞がって、声をかけた。


それなのに。


言葉を交わした、その瞬間、

胸の奥で、何かが引っかかった。


怖いとも、安心とも違う。

けれど、どうしても無視できない感覚。


(……この人)


そう思った自分に、少し戸惑った。


この人は、他の人と違う。

そう断じるには、理由が足りない。

言葉も、態度も、特別なものはなかった。


それでも、胸の奥では、もう決まってしまっている。


彼女の目には、

期待も、好奇心も、計算もなかった。


見ていたのは、

神坂家でも、才能の出来不出来でもない。


ただ、そこに立っている「人」。


近づいてこないのに、

遠ざけもしない。


踏み込まないのに、

線を引いているわけでもない。


その距離感が、ひどく不思議だった。


(……変な人)


そう思って、目を逸らしたはずなのに、

なぜか、横を通り過ぎていく、その背中が気になった。



——あの時も。


追い詰められて、身の危険を感じたあの日。


あの腕が振り下ろされれば、

間違いなく致命傷は避けられなかった。


そんな状況で、彼女は真っ先に、

迷いなく割って入った。


派手なものじゃない。

必要な分だけ状況を切り取り、退路を作る。


切羽詰まった状況。

それなのに、彼女の声は冷静だった。


「怪我はないですか、神坂さん」


戦いが終わったあとも、変わらない声音で、

声が落ちてくる。


「それなら、私がボディーガードをやりましょう」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが噛み合った。


(……あ)


張りつめていたものが、ほんの少し緩む。


この人は、神坂家だから見ているんじゃない。

期待も、評価も、値踏みもない。


見ているのは——

過去でも名前でもなく、

「今ここにいる私」だけ。


心配するのに縛らない。

助言するのに、選択は委ねる。


最初に感じたあの違和感は、気のせいじゃなかった。


(……やっぱり、この人)


あれは違和感じゃない。

確信だった。


——雪谷 鈴菜は、今まで出会った誰とも違う。



——そして、今。


呪術師の前で、

黒い霧に呑まれかけたこの瞬間。


彼女は、やはり同じ目で、私を見ていた。


救おうともしない。

正そうともしない。


ただ、立つかどうかを、私自身に委ねる。


(ああ……)


あの時の違和感は、間違いじゃなかった。


彼女は、

私を“縛らない”人だった。


だからこそ、

今まで出会った誰よりも、

強く、心に残った。


——そして、気づく。


自分は、この人の前でだけ、

「ちゃんとしていなくてもいい」と思えていることに。


怖さが消えたわけじゃない。

過去がなくなったわけでもない。


それでも。


(……立てる)


その確信だけは、

彼女と出会った瞬間から、

ずっと、ここにあった。

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