NO.31 影が息をする
鈴菜は魔力探知の力を使いながら、呪術師の居場所を追う。
中庭へ向かう階段を降りる途中、再び爆音が響いた。
中庭に足を踏み入れると、校舎の壁が大きく崩落していた。
その中央に、呪術師が立っている。
「派手に壊れたね」
鈴菜は構え、魔術を撃ち込む——が、呪術師はまるで気にも留めずこちらを向いた。
「グアアァァ!」
そのまま突進してくる。
「……ッ!」
走って廊下へ逃げ込んだ瞬間、背後でガラス扉が粉々に砕けた。
呪術師がそのまま廊下に侵入してくる。
角を使って逃げながら魔術で牽制する。
次の角を曲がった瞬間、前方に人影が見えた。
「——神坂さん!?」
なぜか廊下にいる梨亜の姿。
迷っている暇はない。
私は後ろを振り返り、呪術師の頭上の壁を撃ち抜いた。
落下した瓦礫が呪術師を一瞬だけ止める。
「神坂さん、こっち!」
二人で走って距離を取った。
「今まで魔高に呪術師が来るのなんて初めてだったから、
もしかしたら私が原因かと思って隠れてて」
梨亜の説明に、鈴菜は胸がざわつく。
私が以前教えてしまった“呪術師に狙われやすい体質”が、彼女を巻き込んだのかもしれない。
「……ひとまず、体育館まで行きましょう。護衛します」
梨亜がうなずき、立ち上がる。
だが次の角に差し掛かった瞬間——
呪術師がこちらに向き直った。
「ウガアアァァ!」
「神坂さん、下がって!」
咄嗟に魔法で防御壁を張る。
呪術師は障壁にぶつかり、甲高い咆哮をあげた。
「ドケエエェェェ!」
「い、今しゃべっ……」
話す間もなく、呪術師が攻撃を仕掛けてくる。
「くっ——!」
梨亜を鈴菜の背に隠して、防御壁で攻撃を受け止める。
ただ足止めにしては、相手は強力だった。
呪術師の一撃が、防御壁を砕いた。
氷が砕けるように、魔法でできた破片が飛び散る。
破片が鈴菜の頬に吸い込まれるように飛び、
その肌に切り傷をつくる。
彼女の後方まで風を切って飛び、
梨亜の足元で塵になるように消えた。
鈴菜が膝をつき、息を詰まらせる。
怯むことなくもう一度魔法を展開する。
だが、同じように呪術師の一回の攻撃で、
防御壁壁は砕け散る。
「何度でも!」
続けざまに攻撃が繰り出される。
攻撃の度に何度でも防御壁を展開し、
鈴菜の意思は折れることはなかった。
逃げることも許さないほどの猛攻撃に、
逃げる隙を見失い、攻撃を捌くことしかできない。
一人で請け負うには無理がある敵だった。
鈴菜は遅れることなく魔法を展開していたが、
とうとう限界が近づいてくる。
彼女の瞳から水色の光が薄れていく。
汗が滲み、食いしばる歯の隙間から黒い煙が漏れていく。
「……ッ!」
その苦しげな背中を見ていた梨亜の中で、
何かが音を立てて切れた。
(やっぱりだ)
私がいるから。
私が、何もできないから。
守られて、逃げて、
誰かを削って生きている。
胸の奥が、黒く濁っていく。
(全部……全部、私のせいだ)
否定、後悔、羨望、憎しみ。
名前のない感情が絡まり合い、
思考を塗りつぶしていく。
——魔法師だったら。
その言葉だけが、頭に残った。
次の瞬間、
梨亜の足元から、黒い霧が滲み出した。
まるで影が、形を持ったように。
冷たく、重く、静かに広がっていく。
鈴菜はゾッとするほどの悪寒を感じ取った。
本能的に顔が強張る。
魔力探知しなくても分かる、異質な空気。
呪術師でも、魔術でもない。
——人の感情そのもの。
梨亜は、自分の変化に気づくことなく、
ただ、壊れそうな目で前を見つめている。
「……そうよ、私が全部の元凶……」
その呟きに、鈴菜が反射的に反論する。
「それは違う!」
そう声を張ると、
力を振り絞って、呪術師の魔法を跳ね除け、
小型銃で消化器を撃ち、白い粉が舞う。
お互いの姿が見えなくなり、呪術師の攻撃が止む。
呪術師がその異形の腕を振り、霧が晴れると、
2人の姿はそこにはなかった。




