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NO.29 価値を欲する声は、闇で育つ
暗闇のあとに、ひとつだけ残った。
それは希望なんかじゃない。
温かさでも、未来でもなかった。
ただ、じくじくと腐らないまま残った棘みたいな願い。
「……証明したい」
家族のためでも、家のためでもない。
姉たちを超えたいわけでもない。
そんな甘い動機じゃなくて。
「私は、無価値なんかじゃない」
その一言を世界に突きつけるためだけに、
私は魔術を握りしめ続けた。
手が痛くても、血が滲んでも、
魔術に弾かれて呼吸が荒くなっても。
痛みなんてどうでもよかった。
痛い方が安心するくらいだった。
だって——感じられるから。
私はまだ“ここにいる”って。
そんなとき、耳に届いた噂。
——魔法師。
魔術よりも上。
どんな名家でも届かない、選ばれた者だけの領域。
もし、それになれたなら。
あの屋敷の光も、
父の言葉も、
全部、灰みたいに崩せる。
“父が与えた価値”を捨てて、
“自分で掴んだ価値”に塗り替えられる。
だから私は惹かれた。
救われたいからじゃない。
頑張りたいからでもない。
もっと黒い。
——壊したかった。
あの日私を捨てたものを。
「無価値」と言い切った世界そのものを。
魔法師になれたら、全部終わる。
全部、上書きできる。
その可能性だけが、
真っ暗な心の底で光じゃなく、
火種みたいに赤く燻っていた。
それが、魔法師への執着の正体だった。




