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NO.28 名家の鎖の裏側で

小学生だった頃の私には、

もうその時から“居場所”がなかった。


学校で声をかけてくる子たちは、

みんな私じゃなくて“神坂家”の方を見ていた。


「すごい家なんでしょ?」

「いいなぁ、お金持ちなんでしょ?」


そんなことばっかり言われて、

私が何を話しても、

みんなの目はどこか遠くの誰かを見ているみたいだった。


遊びたいのに、

笑いたいのに、

胸の奥がキリっとして、

息をすると苦しくなる。


それが何なのか、当時は分からなかった。

ただ、体の中に“ぎゅっ”と硬いものが巻きついていく感じだけはあった。


家に帰っても、安心なんてしない。

父の視線は重くて鋭くて、

背筋の中まで冷えるようだった。


そして——あの日。


父に呼ばれて、

いつものように黙って立っていた私に、

言葉が落ちてきた。


「お前は神坂家の恥だ。

少しは役に立つかと思っていたが、使えないのならここに居る必要はない」


その瞬間、

頭の中が大きく音を立て、目の前が真っ暗になった。


怖いとか、悲しいとか、

そういうのも分からなかった。


ただ、心の中で何かがずんと重くなって、

息を吸うのも忘れるくらい冷たくなった。


家の期待なんて分からない。

後継って言われても、意味なんて知らない。


でも、分かっていた。


——私はここにいらないんだ。


その思いが、何より苦しかった。


本当は、

ただ自由に笑いたかった。

怒られない世界で生きたかった。

誰かに「いていいよ」って言ってほしかった。



幼い梨亜は、その時まだ気づいていなかった。


胸の奥に生まれた冷たさが、

いつの間にか細い鎖のように心へ巻きついていくことも。


父の言葉を浴びるたび、

その鎖はひとつ、またひとつと音もなく増えていった。


重さも痛みも、あの頃の梨亜には分からない。

ただ「息がしづらい」という幼い感覚だけが残り、

理由の分からない窮屈さとなって体の中に居座った。


やがて彼女が歩くたび、

透明な鎖はその小さな足元で静かに引きずられていく。


梨亜自身は今も知らない。

その鎖が、孤独と恐れと期待の残骸でできていることを。


そして、

その鎖こそが後に“執念”へと変わる火種になることを——。

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