NO.27 存在の境界線
廊下の向こう――
三つの影が並び、魔術の紋章が空中に浮かんだ。
光が弾け、風が生まれ、空気がわずかに震える。
父が腕を組んで立ち、目を細め、満足げに頷いた。
姉たちはその評価を当然の権利のように受け取る。
誰も緊張していない。
そこに立つことが当たり前だからだ。
その光景は、均整が取れていた。
眩しくて、強くて、触れられないほど完成されていた。
まるで『神坂家の未来はここにある』と示すように。
……でも、その列には四人目の枠なんて存在しない。
梨亜は柱の影に身を寄せ、
自分でも気づかないほど静かに息を止めていた。
息を殺していたのではない。
——呼吸をする資格がないように思えたから。
胸の奥は、しんと冷えている。
なのに、その中心だけがじわりと熱を帯びて疼いていた。
羨ましい。
悔しい。
追いつきたい。
追い越したい。
認められたい。
——いや、そもそも。
私は、そこに立つ予定があったの?
そんな問いが浮かび、
それがあまりにも苦くて、幼い心にひっかかった。
焦りもあった。
置いていかれるような、
初めからカウントされていなかったような感覚。
姉たちの笑い声が響いた。
それに続く父の称賛。
どれも綺麗で、整っていて、
まるでこの屋敷の中には「正しい答え」がひとつしかないと言っているようだった。
その音が、耳ではなく胸を刺した。
「……わたしは、いらない子?」
その言葉は声にならず、
喉の奥でゆっくりと溶けていった。
手が震えている。
感情の名前なんてまだわからない。
怒りか、悔しさか、諦めか。
もしかしたら全部。
でもひとつだけ、確かなことがある。
——母がいた時だけ、私は存在していた。
その優しい手が、
その声が、
その存在が、
ここに立っていいと教えてくれていた。
でも今。
母はもういない。
その席は空白のまま、冷たく凍りついている。
だから梨亜は、光の方を向くのをやめた。
視線を逸らし、背を向け、
足音が響かないように静かに歩き出す。
廊下を進むたび、影が長く伸びていく。
その影だけが、梨亜の存在を証明するみたいに。
胸の奥に残った小さな熱だけが、
「まだ終わってない」と囁くように疼いていた。
それが何なのか——
憎しみか、望みか、渇望か。
幼い梨亜には、まだ区別する言葉がなかった。




