NO.2 魔法と停滞の時代
雪谷鈴菜は、窓の外に広がる景色をぼんやりと眺めていた。
彼女が生きるこの時代――それは「停滞の時代」と呼ばれる。
技術や農業、科学の最先端は、どこかで止まってしまった。
表向きには平穏で、便利さに溢れた生活が続いているように見える。
だが、その実、新しい未来への一歩は二百年もの間、踏み出されていない。
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100年前――
当時の人々は普通に暮らしていた。
インターネットを使い、携帯電話でやり取りをし、
年賀状や手紙を送り合う。
それらの文化は、二百年後の現代にも形を変えずに存在している。
だが、進歩という言葉はそこに無かった。
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そして、その平和は ある日を境に終わりを告げた。
なんの前触れもなく、世界は突如として揺れ始めた。
地震のように激しい揺れが街を襲い、人々を怯えさせた。
その混乱の中、現れたのは――
異形の化け物だった。
日本の都心部に突如として姿を現したそれらは、
一体、二体では収まらない。
百、千……いや、一万を超える化け物が、
逃げ惑う人々を蹂躙し、建物を破壊し、
「続くはずだった平和」を跡形もなく奪い去った。
その間、わずか十分。
十分で街は地獄に変わった。
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だが、その地獄の只中で、奇妙な現象が起こる。
街の片隅で、ある一人の男性の手が輝いた。
次の瞬間――
目に見えるエネルギー弾が、彼の手から放たれる。
「な……なんだ、これ……?」
彼自身も、彼の周囲にいた人々も、何が起こったのか理解できなかった。
エネルギー弾はビルの壁に直径2メートルほどのひび割れを作り、
コンクリートの破片が周囲に飛び散る。
男性は呆然とその光景を見つめるだけだった。
やがて彼以外にも、似たような力を持つ者たちが次々と現れ始めた。
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その日を境に、世界は変わった。
化け物と、それに立ち向かう「力」を持つ人々。
その力――エネルギー弾の正体は、
やがて解明され、こう呼ばれるようになった。
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『魔法』――それがこの時代の真実である。
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100年後の今、スズナの目に映る世界は平穏そのものだ。
だが、彼女も知っている。
その平穏が、化け物や魔法という異常の上に成り立っていることを。
そして、その裏に隠された、
さらなる真実があることを――。