NO.16 情報屋の少年と警報の鳴る午後
「お久しぶりです!」
「うん、久しぶりだね。何ヶ月ぶり?」
「二ヶ月ぶりでしょうか」
公園ほどの広さがある魔導大図書館の中庭にて、ベンチに座った二人の若者が話している。
鈴菜の目の前には、優しそうな顔をした少年。
鈴菜の一歳年下、中学三年生だ。
彼は鈴菜を見て笑顔になる。
ふと風が吹き、彼は被っている帽子が吹き飛ばされないよう手で押さえる。
「レノ君の二ヶ月間の任務、無事に終わってよかったよ」
「ええ。あんな長期任務、もうこりごりですよ」
そう言って、彼は苦笑いを浮かべた。
⸻
この少年の名は水内玲音。
玲音は鈴菜と同じ『魔法師』であり、魔導大図書館に属している。
彼の役割は、『呪術師の阻止』と情報収集。
つまり『情報屋』の顔も持っている。
戦闘時には、鈴菜たち姉妹のサポートをしてくれる頼もしい存在だ。
⸻
「あ、スズナ先輩」
「うん?」
「魔高の授業、ちゃんと毎日参加できていますか?」
鈴菜は目を逸らし、冷や汗をかく。
心の中で玲音にムッとする。
(君にも言われるとは。どこからその情報を仕入れたんだい?)
玲音は情報屋だ。どんなことでも見透かされるらしい。
「ははは…」
乾いた笑いしか出なかった。
「先輩、学べることは学んでおいた方が得ですよ。
どんな状況になっても対応できるように、です」
彼は優しい声色で、ただ真剣な顔でそう言った。
鈴菜は戦闘時だけでなく、日常でも気をかけてくれる彼の存在に感謝しつつ、少し申し訳なさも感じる。
「それもそうだね。それなりにがんばるよ」
鈴菜はありきたりな答えを返し、話を切り替える。
「情報屋のレノ君に依頼したいことがあるんだけど」
「はいっ、なんでしょうか?」
「魔高で私が『魔法師』だってバレちゃった話、知ってる?」
「もちろん聞きました。
大変でしたよね。怪我はありませんでしたか?」
「うん、大丈夫だったよ」
鈴菜の言葉を聞いて、玲音は安堵する。
鈴菜は口に手を添え、小声でお願いをする。
「それで、その女子について、ちょっと調べてもらえないかな?」
⸻
玲音はメモを取り出し、依頼内容を書き留めた。
書き終えるとメモ帳を閉じ、鈴菜に近づく勢いで意気込む。
「必ず先輩のお役に立ってみせます!」
「……そこまで意気込まなくても大丈夫って、いつも言ってるのに」
「いいえ、スズナ先輩の依頼ですから、いつもより徹底的にやらないと!」
鈴菜は気圧され、それ以上言えなくなる。
「……というより、僕が単純に嬉しいんです。鈴菜先輩から依頼してくれることが」
玲音は目を逸らし、いつもより穏やかな表情でそう言う。
その横顔から控えめにのぞくその耳の赤みが、どんな言葉より雄弁に彼の本心を語っていた。
玲音の反応に鈴菜はほんの一瞬だけ違和感を覚えたが、それが何なのかを考える前に、自然と会話の続きを返していた。
「そう言ってくれるなら助かるよ。よろしくね」
鈴菜の何気ない返しに、玲音は少し表情を曇らせた。
鈴菜はそれに気づくことなく、話を続ける。
「報酬は、そうだね……。じゃあ、好きな帽子を一個買ってあげよう!」
「今回もお言葉に甘えて。それでいきましょう」
玲音は爽やかな笑みを鈴菜に向けた。
「でも何百人と居る高校生の中から一人を探すのは、時間がかかったりしない?」
「いえいえ、楽勝ですよ」
玲音は変わらぬ笑みを返す。
鈴菜は『情報屋』の情報網が広いことを知っている。
冗談のような冗談でない回答に、苦笑いをする。
「あと、さっき聞いた話ですと、その女の子は『神坂』という名字なんですよね?」
「ああ、そう言ってたかな」
玲音は追加でメモに記入をする。
彼はメモで口元を隠し、鈴菜を見て言う。
「思ったより早く結果報告ができそうですよ、先輩」
そんな会話をしているとき、不意に警報が鳴り響いた。
アナウンスが告げたのは―
呪術師の出現に関する報告だった。




