NO.1 裏切り者
「この中に裏切り者がいる!!」
教師の鋭い声が教室中に響いた。
三十人ほどの生徒たちが一斉に息を呑み、顔を見合わせる。
「裏切り者は――君だ!!」
教師の人差し指が一人の生徒を指し示す。
その先にいたのは――『私』だった。
⸻
―数日前―
「今、午後五時……かぁ……」
私は窓の外に目をやり、ため息混じりに呟いた。
空は灰色。今日もまた疲れた一日だ。
「スズ姉、疲れてる?」
隣から聞こえてきた幼い声に、私はふと視線を戻す。そこには、小さな妹――アヤメが心配そうに見上げていた。
「そうなんです……疲れてるんです……」
正直な気持ちをそのまま口にする。
アヤメは私の答えに一瞬考えるそぶりを見せると、ふいに小さな手を伸ばしてきた。
そして、ふわっと私を抱きしめる。
「じゃあね、私を枕代わりにして寝てもいいよ?」
お腹のあたりに顔を埋めながら、彼女は囁くように言った。
「……枕代わりじゃなくて、湯たんぽ代わりにしようかな」
思わず口元がほころぶ。けれど、続ける言葉を飲み込んだ。
アヤメが私の膝にうずくまり、そのまま目を閉じたからだ。
(眠たかったんだね……)
私はそっと彼女の頭を撫でる。手のひらに伝わる柔らかな髪の感触に、自然と目元が緩む。
アヤメの寝顔は安心しきっていて、こんなにも小さな彼女に癒される自分がいることに気付かされる。
⸻
私は雪谷鈴菜――通称スズナ。
そして今、姉妹で「いつもの部屋」にいる。
傍らには、私の実の妹である雪谷菖蒲――アヤメがいる。
彼女は私を「スズ姉」と呼び、私は彼女を「アヤちゃん」と呼ぶ。
そんな私たちを知る人たちは「シスコン姉妹」だと笑うけれど……本当の意味なんて、よくわからない。
まあ、どうでもいいことだ。
アヤメの寝息を聞きながら、私も眠たくなってくる。
けれど、今寝てしまうと夜眠れなくなるかもしれない。私はそんな自分に言い聞かせるように、無理やり目を開けた。
その時、カチャリと扉が開いた音がした。
「頼まれていたもの、持ってきたよ~」
柔らかな声と共に入ってきたのは、軽やかな足取りの男性――校長だった。
「……またその軽い口調ですか」
私は呆れながら彼を睨む。
「校長ともあろう人が、その態度はどうなんですか?」
「いやいや、ここはプライベート空間だろ?」
校長はおどけた調子で返すと、にっこり笑った。
そんなやり取りを横で聞いていたアヤメが目を覚まし、クスクスと笑う。
「スズ姉、校長先生と仲良しだね」
「別に仲良しじゃありません」
私はそう返しながらも、小さく笑ってしまう。
――これが私たちの日常。
「いつもの部屋」で繰り返される、穏やかなひとときだ。




