【7】
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いつもここで珈琲を飲む度に思う。
程良いバランスを自分が掴む事は、想像しているよりも時間がかかる。
同じ豆、同じ方式で淹れた珈琲の味は、自分と店員さんとは違う。同じように淹れているように見えて、淹れられていないのだと痛感する。お湯の温度、蒸らす時間と注ぎ方、挽き具合、そのすべてが微妙に違う。違うからといって、守らないといけない重要なところは、しっかりとらえている。かといって、基本に厳密に忠実ではないからこそ、その人の良さがが出てくる。
厳密にこだわるのならば、人ではなく機械が珈琲を淹れるのが上手い。
「・・・悔しくなるくらい美味しい」
「誉め言葉として受け取ります」
ルカは、にっこりと笑みを浮かべた。
笑顔を見て、私の今の悩み似ているのかもしれないと悟った。
私が不安に思っている事は、別のとらえ方ができれば不安ではなくなる。自分の心、次第で変わる。環境に左右されてしまう事もあるけど、それだけが理由のすべてではない。同じ悩みを、同じ環境でもったとしても、この人は、手探りで乗り越えられる。そういう人なのだと、差を見せつけられた気になってしまう。
「そう受け取ってください」
半分は敗北宣言でもある。
負けを認める事は、先に進むのに必要だ。そうは分かってはいても、悔しさは増していく。
「いつか、勝ちますから」
「そうですか」
『やれるものならやってみな』と挑戦的な笑みを浮かべている。その様子を見て、女性の店員はたしなめる。
「ごめんね、この人がこんなで」
「いえ、そういうところ、嫌いではないです」
自分一人で努力をするよりも、いい結果を出せそうだ。それに、すべてを話さなくても、包容力があるところが格好いいと思う。その部分だけは、憧れてしまう。
「私も、嫌いではないです。好かれやすいから、つい嫉妬してしまう。けど、浮気だけはしないのは確信をもっているので、信頼しています」
断言できるところが、羨ましい。
ルカは、視線を私達からそらし、照れている。
「照れているの、可愛いですね」
「・・・・・・いきなり言われたら、照れるだろ」
「いつも言う側だから、言われ慣れてないでしょ?」
ニヤニヤした笑みを浮かべている女性の店員に、図星だという表情をルカは浮かべている。その様子を見て、どちらといえば、主導権を握っているのはルカではないかもしれないと感じた。
「言葉だけでも不安になるけど、行動だけでも不安になる事もありそうだけど、2人には関係なさそうだね」
瑠奈は紅茶を飲みながら、そう言った。
「そうだね」
不安を完全になくす事は難しい。
人の気持ちは動いて変化するから、そのままでとまっている事も少ない。言葉と行動の両方で、相手に伝える事が相手の信頼をもらえる方法なら、焦らずにその方法をやっていくのが一番なのだろう。
「友里恵の事、信頼しているから」
「・・・ありがとう」
喫茶店からの帰り道、心地の良い風が吹いて髪を撫でていく。
「私も瑠奈の事、信頼しているから。・・・触れて欲しい」
私から瑠奈の手を握る。
離れないように強く、瑠奈は手を握り返した。
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