【5】
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離したくないくらいに、大切な存在にいつの間にかなっていた。
だからこそ、大切な存在が失う事もありえると想像すると、怖くて指から血の気がひく。そこから、一気に寒くなっていく。体が冷えていくと、気持ちも一気に冷えていくほどになっていた。
感情が、不安定だ。本当に、些細な事が気になってしまったりするからだ。
私は、紅茶の温かさを確認するかのように、ゆっくりと味わう。思わず、温かさに安堵のため息が出てくる。
失いたくないからこそ、私は、転職も考えているわけなのだけれど・・・。
あらためて大切な存在だと認識すると、以前から心の中にあった感情の輪郭をはっきりと暴き出している気がした。
「その人は、どんな人ですか?」
「えーと・・・仕事のできる、時々性格が可愛いなと思う時があるような人」
「ふーん?」
今伝えた事では、具体的な想像をする事ができなかったらしい。疑問が浮かぶ表情をしている。
「話は変わるけど、変わらない気持ちってあると思う?」
飲み終わってしまった紅茶のカップをソーサーに戻す。
「今は、この気持ちはずっと続くと思っているけど、ことわざでも、気持ちは変化していくと書かれているのもあるじゃない?思っているから、些細な行き違いが決定的になって、もう取り戻す事ができない、とか」
「・・・・・・私のは上手く言えないですけど、『相手を想えて愛せているのか、お互いに家族になれるのかによって違う』と、あの人が言っていました」
「何者? 恋愛マスター?」
「いいえ、全然そんなイメージはないですよ。奥手の臆病です。何か考え事があると、ふらっと本を読みに行くような読書家です」
「ふらっと本を読みに行くところ、気が合いそう」
小説を読む事が少なく、ビジネス書やメンタルについて書かれている本を手にとる機会が多くなってきているけれど。つまりは、時々、『壁』が現れるからだ。最近は、『壁』が現れると、瑠奈の適切な助言で乗り越えられる。
瑠奈はビジネス書も読みが、それよりも仕事をこなしてきた経験が財産になっている。他人の言葉を聞いただけではなく、すでに、自分の手でつかみ取った実感のある経験だから、適切なのだと思う。
「会ってみたいかも」
「すでに、会っていると思いますよ?」
含み笑いの意味は、後日知る事になった。