【4】
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数日後。
休日に家事を淡々とこなし、珈琲を飲みながら一息つく頃、昼になっていた。
二人で居る時が充たされている時間なら、独りで過ごす時間は、以前よりも飢えを感じやすい時間になっている。仕事や家事から解放されて、自分の時間を過ごす時間にはやっておきたい趣味に夢中になれるが、集中していると、集中しすぎてしまっている気がして怖くなる時がある。
ふと、イラストを描いていた手をとめ、時計を見上げた。外は良い天気で散歩日よりだ。家の中にいるのがもったいない。そんな気がして、私は、机の上に広げたままだった筆記用具をバックに放り込み、喫茶店に向かった。
秋の心地の良い風が吹き、紅葉した木々を撫でていく。秋らしい景色を見ながら丁度良い距離を歩いていくと、それだけでいい気分転換になる。
結局、あの後は、『いつもと同じ』以上の事は何も起こらずに過ごした。起こらなかった事に対して、少し残念な気持ちになっている。
もっと、触れて欲しい。
なのに、我慢はしないと言いながら、どこかで恐れて触れる事を我慢しているのではないかと感じた。触れる事で嫌われるのを恐れていると、なんとなく伝わってきた。そんな事はないのにな、と思いつつも、そこまでの信頼はないのかと少し寂しい。
考え事をしながら歩いていくと、もう喫茶店に到着した。
平日の昼間、丁度良いお茶の時間だ。もう少し人が居るのかもしれないと思ったが、いつもと変わりない人数だ。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
違ったのは、店員さんが眼鏡のあの人ではなく、年が近そうな女性だったところだ。席はだいぶ空いているので、壁際の席に座る。
「紅茶を」
「かしこまりました」
お財布の中身が寂しくさえなければ、ケーキセットにしたのに。そう思いつつ、持ってきていた筆記用具をテーブルにひろげ、さっき描いていたイラストの続きを描き足していく。今回は、ボールペンの一発描きだ。丁寧に描く事を意識すると、一本の輪郭を綺麗な線で描けやすくなると眼鏡の人は言っていた。
半分しか描けていなかった輪郭が、大半が描き終わる頃、カチャという陶器がぶつかる音がして、紅茶を置かれる。
「お待たせ致しました」
集中していた後に、温かい紅茶を飲むと心が和む。
「綺麗なイラストですね」
「ありがとう」
「イラストって、本当に人によって違いますよね。描いた人の内面が映し出されているような」
「誰か描く人が居るの?」
「私の周囲には、創作が好きな人が多いです」
「そうなんだ」
「はい、私の恋人も創作が好きで。時々、こっちが赤面になるような事をさらっと書くのをやめてほしくなります」
「さらっと書くのか。どんな人?」
「外見はクールに見えるのに、性格が可愛い人です」
「可愛いんだ」
「正直なところ、時々、どうしてくれようかと思います」
「そうなんだね」
その様子が簡単に想像できてしまった。
「この人だけは、離したくないです」
「あ、それは、分かる気がする。私にも離したくない人が居るから」
ふっと笑みを浮かべると、女性の店員さんも笑みを浮かべた。
そう、私は、もう瑠奈の事を離したくない存在だと感じていた。