ダンジョンの最闇 ~ワーナーの部屋~
ここは街にあるダンジョンの最奥地。ランプの灯りも役に立たぬほどの闇が広がる地下10階だ。
その一室に彼は居る。老魔術師ワーナーだ!
古ぼけた本棚、七色の謎の液体が入った壺、小さな机の上に置かれた書類の山。そして部屋の中央で怪しげな光を放つ魔方陣に向かい何かを唱えるしわがれ声のワーナー……。その傍らには不思議な装飾を施された少女が居た。
「お前はわしの最後の希望じゃ……。この退屈で死にたくても死ねない世界から、わしを救ってくれ」
少女は目を見開き無表情のまま頷くと、『シュッ』っと音を立て消えてしまった。
「王の娘よ。頼んだぞ……」
「お呼びですか?ワーナー師」
老魔術師の後ろに、跪き指示を仰ぐサメ頭の男と、ライオン頭の女が現れた。
「娘が心配じゃ、暫く様子を見てやってくれ。それと、地上から僅かだが懐かしい魔の匂いがした。おそらく禁呪の書だろう。回収して参れ……」
虚ろな目を半分開き、2人の頭を撫でるワーナー。
「仰せのままに……」
2人は顔を上げワーナーを見た。
「黒炎の月まで後僅かだ。抜かるなよ?」
ワーナーの眼光が光ると、2人はピンと立ち上がり「ハッ!」と返事をし転移呪文で消えた。
――カズハの家――
「――それで、今の話は本当なんだろうな?」
机にもたれ掛かるエルを睨みつけ、ロードは禁呪の書を指で小突いた。その側には心配そうな顔でこちらを覗うカズハが居た。
「ああ、俺も見たがコイツは完全な原本だ。きちんと狂ってやがる。うちのプリースト様でも解読出来ちまった……」
「何故それをクリスタが……」
「そこまでは知らん。だが、ノートを見た限り理解はして居なかった様だった。唯一の救いだな」
「嗚呼、全くだ。彼女には必要ない物だな。そこだけは感謝する」
「ふん。で、どうするんだコイツは?」
「城へ引き渡そう。こんな禍々しい物、持っているだけで迷惑被りそうだ」
「ああ、頼んだぞ。……くれぐれも読むなよ?」
「俺も『君主』だからな。神聖呪文に適性はある。使おうと思えば使えるが、その気にはならん。コイツは神の名を借りた悪魔の書だからな」
話がまとまり3人が外へ出ると、何やらダンジョンの方から騒がしい人集りが見えた。
「誰かー!!」
ハゲたオッサンメイジが忙しなく叫んでいた。
「おいおい、またバリテルか?」
と、人集りをかき分け入口近くへと向かうとエルが目にしたのはあまりにも悲惨な光景だった!
「……う、あ……あ……」
人と思われる肉塊。
へし折れた手足が結ばれており、身動きする事も出来ない。
顔は皮が剥がされており判別が出来なかった……。
鎧に刻まれたイニシャルからバリテルだという事が辛うじて分かるくらいにしか判断材料が無かった。
その光景を目の当たりにしたエル、ロード、カズハに戦慄が走る!
「カズハ!プリーストを片っ端から呼んでこい!!」
ロードは直ぐさま手当に入った。
「こいつはひでぇ……」
エルはバリテルの鎧に貼られたメモに気が付く。
――禁呪の書を持つ者へ。地下9階で待っている。来なければ冒険者全員を同じ目に合わせる――
「おい、これ……」
「…………さっそく厄介事だな……」
「旦那!呼んできたよ!」
「ああ、すまない。ありがとう」
ロードは険しい表情でお礼を述べる。
「カズハ」
「ん?なぁに旦那?」
「暫くクリスタを任せた。俺が戻るまで絶対に側を離れるなよ」
「え? え?」
困惑するカズハだが、ロードの表情から事を要すると感じたカズハは無言で頷いた。
「すまんな。何かあれば城へ駆け込め。これを見せれば多少は話を聞いてくれるだろう」
ロードは小さなバッジをカズハの手に握らせた。龍の尾に剣が巻き付いたデザインのバッジには不思議な重みを感じる。
そして続々と駆けつけるプリースト達に治療を任せ、2人は酒場へと向かった。




