禁呪の書 ~リ・インカーネーション~
破滅への序章
それは寺院の掃除中の事だった……。
「何か引っかかるわ……」
寺院にある本棚を動かそうと、中身を出し、本棚をずらした時に床に本棚が引っかかり、床が剥がれてしまった。
僅かに剥がれた床の下に金具がチラリと見える。
「?」
床を更に捲ると、そこには小さな扉が現れた……。
「!?」
クリスタは目の前に突如として現れた非現実的な光景に、辺りを見回した。
今は彼女以外に誰も居ない寺院。この扉を知る者は私しか居ないのではないか!?そんな言葉が彼女の脳裏に過る。
意を決して扉の金具に手を掛けると、ゆっくりと手前へ引く。そして、それは予想より簡単に開き、扉の先に有る物がより非現実な現実をか弱き彼女へと突きつける!
「……本?」
小さな扉の中には不気味な色の背表紙の本が一冊しまってあるだけだった。角が擦れて丸みを帯びてはいるが、そこまで古い物ではなさそうだった。
クリスタはその本を手に取り、クルリと表を覗く……。
「ひっ!?」
思わずゴトッと本を落としてしまう。その本の表紙には人の顔が描かれており、その顔は絶望と恐怖に満ち溢れており、まるで死の間際を写したかのような生々しさがあった!
クリスタは迷った!その本を元に戻すべきか……。
そしてその答えを1ページ開いた先に見送ることにすると、ゆっくりと本を開いた……。表紙の顔に触れること無く……。
*リ・インカーネーション*
そう書かれた言葉の下に、赤黒い文字で『禁呪』と書かれた注意書きが見られた……。
「……………………」
クリスタは本を閉じると、急いで扉を閉め、本棚を戻し始めた!
これは誰にも見付かってはいけない!
クリスタは表紙の不気味さを忘れ、本を握り締める。
本を机の引き出しにしまいこむと、鍵をかけポケットへと入れた。
その手は汗ばんでおり、その心は恐怖に満ちていた。しかし、彼女の好奇心はそれよりも強く非現実に魅入られていた……。
彼女の中に住まう何かがそうさせたのだ。
果たしてそれは神か悪魔か……
その日はすぐに寺院を閉めた。
激しい雨の中、クリスタの綺麗な机の上にはランプが灯っていた。きっと前任者はこの机を大事に使っていたのだろう……。
そんな事を軽く重いながら、彼女の手には不気味な本が握られていた。
「これも神の御意思なの?」
本の2ページ目、殴り書きで書かれた様な字の汚さ。解読に少々手間取ったが、辛うじて読めないことは無い……。
――神は居ない。そこにあるのは人の心のみ。これは、信仰心に厚く神を盲信した者達の罪の一部。この呪文を使うことなかれ。過ぎたる力は己の身を焦がす炎となるだろう――
クリスタは時折周りを気にしながら、この本を読み進みた。
しかし、彼女は気が付かなかった。雨音により掻き消された馬車の音を……。
「久しぶりの我が家ね……」
寺院の前に置かれた柩の山が彼女を追い返すように歓迎した。
「げ!何か溜まってるわね!」
彼女は彼等に寺院を任せた事を今更に後悔した。
スペアの鍵を取り出し、ゆっくりとドアノブを開く。
錆び付いた扉の音が懐かしい感覚を思い出させる。
寺院は綺麗に掃除されており、不在の間も上手くやっていた事は見て取れた。
「綺麗にはなっているけど、誰も居ないわね……」
彼女は自分の部屋の前へ立ち、極めて静かに扉を開けた。
その行為に意味は無く、ただ不在の間御世話になった人物を驚かせたいだけであった……。
雷の閃光が窓にクリスタの姿を映す。その隣りに小さく別人が……。クリスタは慌てて本をたたみ、後ろを振り返った!!
その表情に逆に驚いたのがリースであった。
「あ、ゴメンナサイ。どうも……ただいま」
リースはタイミングを謝った事を察した。そして彼女が慌てて閉じた本。これは特に気にはならなかった……。
「……ど……どちら様でしょうか?」
心臓が張り裂けそうな程に、激しく動いているのが分かる。恐らく前に居た人だろう。しかし、聞かずには居られなかった。冷静さを取り戻す時間が彼女には欲しかったのだ……。
「ごめんなさい。私が悪かったわ。下で待ってるわね」
リースは扉を閉め、下へ降りていった。
「…………はぁ、はぁ……」
クリスタは本を自分の服の中に隠した。肌身離さず持っていないと、無くなってしまいそうな気がしたのだ。
ゆっくりと深呼吸を繰り返し、多少落ち着いたところで、クリスタはリースの待つ1階へと降りていった……。




