クリスタの苦悩 ①
朝起きると、昨日まで同じ自分とは思えないほどに身体が軽く、力に溢れていた。
(またLvが上がったんだわ。新しい呪文も使える)
強くなれた事は嬉しいが、2人に近付いていくと思うと複雑な思いに駆られた。
(力の使い方さえ間違わなければ……大丈夫!)
自分にそう言い聞かせる事にした。
朝のお祈りを済ませ、外の柩を運ぶ。
いつもより柩が軽く感じるのは力が上がっているからだろう。
いつもなら目一杯時間を掛ける蘇生の儀式も、いつもより早く終わってしまった……。
(これなら一日4~5人くらい大丈夫かも!)
それから暫くは寝食を忘れ、蘇生の儀式に没頭した。
そして、その日からクリスタは蘇生した冒険者にある質問をする様になった……。
蘇生までの意識の無い間、何か変わった事はありませんでしたか?
蘇生間も無い冒険者に問い掛けるも、大抵は「何も覚えていない」と返ってくる。
私がどんなに祈りを捧げても神は答えてくれず、それでも祭壇の御遺体は確かに蘇る。私にだけ応えてくれない。
きっと私の信仰心がまだ足りないのだろう……。
「なあ、最近寺院の棺が減ったと思わないか?」
「そうだね、きっとあの子が上手くやってるのかな」
2人が酒場で宝箱と睨めっこをしている。
「で?さっきから何やってるんだ?」
「いやね、学園の熱心な弟子達から未だに質問の手紙や成果発表が届くんだよ」
「まぁ、コレは挑戦状だね」
手のひらサイズの宝箱に向かい、2人は注文した酒も飲まず解錠に没頭していた。
「酒が温くなるぞ?」
「待てよリーダー、こいつは中々凄いぜ。地下6~7階の罠と同じくらいの凶悪ぶり!呪文を使えば一発解錠だけどよ、酒抜きにして今日は本気よ……!」
「これは石化ガス……だね。メイジ部との共作かな?」
「あ、わりぃ。石化呪文は俺教えたやつだわ、はは……」
「もしかして飼い犬に手を噛まれるパターン?」
2人はウンウン頷きながら、宝箱から目を離さない。
「……ちょっと寺院の様子を見てくる。あそこ世話した以上たまには様子を見てやらないとな」
「ああ、宜しく頼む」
リーダーは席を立ち上がると、マスターに金の入った麻袋を渡し酒場を後にした……。
「さてと……」
久しぶりの寺院は不気味な程柩で囲まれ、近寄ることを躊躇する様な雰囲気が漂っていた。
「ほう、ちゃんと並んでる奴も居るとは。上手くやってるんだな」
寺院の前には遺体を抱えた冒険者が、次の順番待ちをしていた。リーダーはその後ろに並ぶと、ばつが悪そうに目を背ける冒険者を意に介せずひたすら待ち続ける事にした。
(やる気に溢れている子だったからな。実力もそれなりにあったんだろう……)
なんと、リーダー含めいつものメンバーは誰1人として、当初クリスタが初心者だと言うことに気が付いていなかった!
前の冒険者が思いの外早く終わり、リーダーは寺院の扉を開けた。
「ひさしぶ……りぃ」
リーダーは思わず声を失った。
なんとそこに居たのは、目から輝きを失い、髪はボサボサ、服はシワだらけ。前に見た記憶のクリスタとは似ても似つかぬ程に生気を失い生きる屍の様な状態であった!
「あ、お久しぶりです……」
クリスタは静かに一礼をした。しかし、そのままよろめいてしまう。
「おい、どうした!?なんか変だぞ!」
慌ててクリスタに駆け寄った!
「すみません、少し没頭し過ぎまして……」
「少し横になってろ」
リーダーはクリスタを軽々と抱えると、そのままリースが使っていたベッドへと休ませた。
「……すみません」
「こちらこそすまない。本来ならもっと気に掛けるべきだった……」
2人の間にしばしの沈黙が訪れる。
「あの……1つ聞いてもいいですか?」
「?」
「貴方がダンジョンへ行く理由を教えて頂けませんか?」
リーダーはしばし考えた。
「1つは金かな。もう一つは生き甲斐だな。もう一つは……最下層。そこに用事がある」
「……その為に罪も無い魔物達を殺すのですか?」
「……それを言われると、ちとキツいな。しかし、俺達は生きるために誰かを食ってる。それと似てる……のか?」
クリスタは俯きながらも質問を続ける。
「もし冒険者を辞めろと言われたら、辞めますか?」
「……すまないが質問の意図が読めないんだが?」
クリスタはリーダーの目を見つめて核心に触れる。
「魔物を殺すなと言われたらどうしますか?」
「奴らが素直に道を空けてくれたら考えるよ」
「……すみません。少し疲れました。独りにさせて貰えませんか?」
「あ、ああ……すまない。また来るよ。何かあったら遠慮無く言ってくれ」
リーダーはリースの部屋を後にすると、重い足取りで酒場へと戻った……。
「金、名誉、地位、向上心、探究心、好奇心、戦闘欲。……そんなちっぽけな物のために……とても理解が出来ないわ……」
クリスタはその小さな顔を、小さな両手で覆い隠した……。




