ならず者の教え ②
一足先に宿へと着いたリーダーは、隣の敷地から聞こえる音に耳を傾けていた。
「…………あれは確か……」
その視線の先には、一心不乱に剣を振るトウマがいた。
「135!……136!……137!」
身体は汗に塗れ、その手には豆がいくつも出来ていた。
「……149!……150!!」
トウマは剣を下ろし、汗を拭った。
その背後には、いつの間にかリーダーの姿があった。
「何を斬ってたんだ?」
その言葉に静かに振り向くトウマ。
「……さっきの人。……別にただ剣を振ってただけです」
「ただ振ってただけじゃ強くならないぞ。仮想敵でも良いから相手を斬るイメージを持って振るんだ」
リーダーは近くにあった枝を拾い、適当に振った。
「敵にだって硬い場所、柔らかい場所と様々だ。ちゃんと区別しないとな?」
そう言い残し、立ち去ろうとするリーダーにトウマが声を掛けた。
「あ、あの!」
リーダーが、静かに振り向いた。
「リース先生と一緒に居た人なら、あなたも強いんですよね? 俺に稽古付けてもらえませんか! お願いします!!」
トウマは激しく頭を下げた。
「……しゃあねぇな」
頭を掻きながらリーダーは再び枝を拾い構える。
「ほれ、かかってきな」
クイッと手を曲げるリーダー。
「枝……ですか?」
「不満か?これでも多分お前を殺せる……ぞ?」
トウマはその言葉に背筋が凍り付くような寒気を感じた。
トウマは剣を構え、息を整えると……渾身の気迫でリーダーに向かっていった!!
「いや~!すっかり盛り上がっちまったぜ~」
辺りはすっかり暗くなり、見回りの教員に見つかる前に退散してきたエルとフェリーは、宿の前を通りかかると誰かが闘っている姿を目にした。
「下手くそ!!目線でバレバレだ!」
「はい!!」
そこには真剣を振り回す少年を枝で捌くリーダーの姿があった。
「リーダー?」
「おっ、帰ってきたか。遅かったな」
「リーダーこそ何やってるの?」
エルはクタクタのトウマを目にして何となく状況を理解した。
「特別授業だよ」
リーダーが嬉しそうに笑った。
「かすりもしなかったろ?」
エルがトウマに笑いかけた。
「……はい」
トウマは俯いた。
「そうかそうか。……じゃあ次は3対1だな」
とトウマの後ろに付くエル。フェリーもそれに続く。
「え!? おいおい!」
「何だよ、可愛い生徒に素手の酔っ払い2人が付いただけだぞ!」
「そうだそうだ!」
「呪文使うなら武器関係ないし、この前フェリーが素手でオークの首刎ねてたの見たぞ?」
「あ、見られてた?秘密だったんだけどな~」
素手がアドバンテージにならない2人が加わり、トウマは再度剣を構えた。
「サポートはしてやるから、一撃くらいは入れろ」
その言葉に無言で頷くトウマ。
エルが牽制の氷塊をリーダーへ飛ばした。その威力はそこそこ強い。
「おい!もうちょい手加減してくれ!」
「当たっても痛くなかったらつまんねぇだろ?」
リーダーは氷塊を避けると死角からフェリーの気配を察し、距離を取る。
しかし、突如後ろから死の気配が……。
「うおっ!」
すんでの所で前へ転がりフェリーの手刀を躱したリーダー。
死角からの気配は囮!!
「今のはマジで殺す気だったぞ!」
仲間の本気に焦るリーダー。
安心したのも束の間、起き上がろうとするリーダーにトウマの剣閃が降り注ぐ!
「ヤバ、間に合わん!」
リーダーは咄嗟に籠手でトウマの剣をガードした。
迫真に迫る顔で剣を握るトウマ。
籠手から覗く男の顔は、夜叉の様に鋭く、鬼神の様に激しい闘気をまとっていた!
その表情に思わずバックステップで距離を取ったトウマ……
「お前の勝ちだ」
エルの言葉に、我に返るトウマ。
気が付くとリーダーはいつもの顔に戻っていた。
「2人が本気で来るから焦ったぞ!」
リーダーは笑いかけた。
「君も今のは素晴らしかった。俺じゃ無くてダンジョンのモンスターなら大抵斬れただろう」
トウマは聞き慣れぬ賛辞に呆然とする中、背中を叩くエルの顔を見ると、素直に嬉しい気分になれた。
「さて、そろそろお開きだな。帰るぞ」
「宿はすぐ隣だけどな」
「さーて飯は何にしようかな~」
そそくさと歩き始めた3人。
「あ、あの!良かったら家でご飯食べていきませんか?」
『待ってました!』と言わんばかりに、3人は素早く振り向く……。
トウマの両親は異色な3人を快く出迎え、細やかながら温かい食事も用意された。
トウマの父も冒険者だったが、トウマの誕生を機に安全な職に就いた。
「いやぁ、お三方の様な強い方に稽古をつけて頂けるなんて、家の息子は幸せ者ですよ、はい」
「すみません、気が付いたらこんな事になっていて……」
「いいんですよ。……ところで、トウマの方はどうだったでしょうか?」
トウマの父は棚から珍しそうなお酒を取り出し、あからさまに3人に見せつけた。
「父さん?」
普段酒を飲まない父の行動に、トウマは不思議そうな顔をした。
3人の目の色が変わる!
グラスに並々と注がれた酒は、どんな宝箱よりも魅力的で、例えどんな罠が仕掛けられていても開けたくなる誘惑感が3人を襲った!
3人は酒を飲むと大層気分が良くなり、トウマへの珠玉の助言や探索の自慢話、胡散臭い話しまで色々と語り出した。
父が右手で何かを書くジェスチャーを送ると、トウマはそれらの話しを興味深くメモに取り始めた。
流石は元冒険者。ならず者の扱いには十分長けていた。




