地下7階 ②
小部屋の奥は通路になっており、ダンジョンの外周をグルリと回る様になっていた。
「いつまで呪文禁止区域が続くのかしら?」
呪文の使えないリースは、ただただ不安であった。
通路は小奇麗に舗装されており、この道がよく使われ、彼らにとって重要である事が覗えた。
先ほどの先発隊が戻らない事に疑問を持った彼らが大勢で押し寄せる事を考えるとゾッとするリースであった。
(エルも呪文が使えない。きっと彼も怖いはずよ……)
エルは青年を背中に抱え努めて冷静な表情で居るが、彼の心中も穏やかでは無かった。
ダンジョンでは力の無い者から死んでいく。呪文の使えないエルとリースは恰好の餌食である。
「……止まれ」
リーダーが通路の奥から敵の気配を察知した。
「恐らく通路の先は呪文が使えるはずだ。巨人が8、プチドラゴン5……」
リーダーが言葉に詰まる。
「どうしたんだいリーダー?」
フェリーが首をかしげた。
「すまん、よく分からない奴が2種類程いる。全力で潰しに行くぞ。エル、そいつはここに置いておけ」
エルが青年を降ろし、戦闘態勢に入る。
「確認するぞ……最優先はエルの生存だ。次にリースが蘇生呪文の確保。俺とフェリーは死んでも良い……」
エルの脱出呪文は詠唱に時間がかかり集中力を使う為、戦闘中は使えない。
つまり、次の戦闘はエルの生存が最優先となる。
例えエルが死んでもリースが生きていれば蘇生呪文で生き返せば良い。リースの生存も重要となる。
前衛2人は例え自分が死んでも後衛2人を守らなくてはならない!
自分が生き残るために、死んでも守り抜くのだ。
通路を抜けると、そこは大広間だった。
巨人達が武器の手入れや戦闘の訓練を行っていた。
君たちを見つけた巨人達は警報を鳴らす。
ビーーーー!!
けたたましく鳴り響く不快な音と共に慌ただしく出て来た重装備の警備兵。
その場に居た巨人達も隊列に加わり、君たちを排除しようとする。
巨人達のリーダーと思われる赤い巨人が剣を向けると、巨人達は一斉に構え、君たちに襲いかかった……。
青い巨人 8
プチドラゴン 5
巨人警備兵 6
赤い巨人 1
「リース、エル!」
リーダーが合図を出す。
リーダーの予想通り、大広間では呪文が詠唱出来た。
一安心する暇も無く、リースとエルは攻撃呪文を詠唱した。
詠唱を終えたエルが指先から小さな光を飛ばすと、光は敵の集団の中へ消え次の瞬間核爆発を引き起こした!!
巨人達は核の炎に飲み込まれ、大半の敵は消滅してしまった。
巨人警備兵 2
赤い巨人 1
リースが詠唱を終えると、巨人警備兵の周囲から空気が消え、呼吸が出来ず悶え始めた。
やがて動きが鈍くなり最後には動かなくなってしまった。
赤い巨人 1
リーダーが大剣で赤い巨人の足に斬りかかる。
巨人は足にダメージを受け、地面に倒れこんだ。
そしてフェリーが巨人の首を刎ねた……。
戦闘を終えた君たちの前には凄惨な光景が広がっていた。
大広間の片隅に山の様に置かれたかつての同胞たち。
物言わぬ骸と化した冒険者たちは、君たちを歓迎するかの様にコロリとその頭をこちらへ向けた。
感傷に浸っている暇は無い。君たちは急いで君たちのやるべき事をせねばならないのだ!
「リース」
「反応無し、オーケーよ」
「エル」
「ああ、早いとこおさらばしよう」
エルが目を閉じ、脱出呪文の詠唱を始めた。
リース達を綺麗な光が包み込む。
一瞬で目が開けられない程の白さとなり、気が付いた時にはいつもの寺院の前に居た。
「やっと帰れたか。皆お疲れ様」
表情の緩むリーダー。ようやく地獄から解放だ。
「今回は誰かさんのせいで、とんだ災難だったわ」
リースがエルの顔を見て悪態を突いた。
「へーへー、すみませんね……」
ばつの悪いエル。
「じゃあ、俺はこいつを依頼主に届けるから、また後でいつもの店な!」
と、リーダーは青年を抱えたまま去って行った。
「じゃあ、私も帰るわ」
リースは寺院のカギを開けようと、未だ震えが収まらぬ手をギュッと握りしめた……。




