僧侶のすすめ
この学園に来て、もうすぐ1週間。
主にこの保健室でケガ人の治療に当たっている。
学園内のプリーストが少ないせいで、簡単な治療も保健室へ来る生徒が多く。リースは休憩無しで働き続けていた。
「どうですか? 少しは慣れましたか?」
ガラリと扉から現れた女性の妖精が、リース机に腰掛ける。
通常の扉の上に妖精用の扉があり、その小さな扉はいつ見ても可愛らしい。
「ええ教頭先生、おかげさまで」
リースは大人の返事をした。
「困った事があればいつでも言って下さいね」
妖精は小さな扉を開け、静かに保健室を出て行った。
「……流石に昼間から酒が飲みたい。とは言えないか」
リースは椅子に深く座り直すと、各クラスの生徒名簿に目を通した。
「やっぱり各職業のバランスが悪くて、効率的なパーティを組めていない生徒たちが多いわね」
この学園でダンジョン探索をする職業は、生徒の自主性に任せてある。
好きな時に好きな職業に就いて良い事になっており、流行りや見た目の派手さに影響される事もしばしばある。
更に、好きな生徒同士でパーティを組めるので、より歪なメンバーになる事に拍車をかけている。
「ま、私には関係無い事だけど、流石に仕事が増えるのは嫌よね。前衛職ばかり増えても良い事無いもの……」
リースは名簿をペラペラとめくり、部活紹介のページを見る……。
* ファイター部 *
「うわっ!汗臭そうな奴らがいっぱい!」
部室の中は筋肉質な戦士で満たされており、リースは扉を開けるのを激しく躊躇った!
窓ガラスは人の熱気と湿度で曇っており、怪しさに拍車をかけていた。
「脳筋は勧誘出来そうにないわね」
リースはそそくさと、その場を離れた。
* シーフ部 *
「ん?何か作っているわね……」
扉から少し覗いて見ると、小さな宝箱の中を熱心にいじくるホビット達が見えた。
「ほほっ!出来たでござるよ〜。これを開けると毒矢が四方八方に……ひゃひゃひゃ!」
眼鏡をかけた一際内気そうなホビットが、宝箱を掲げては小躍りを繰り返す。
「……解錠じゃ飽きたらず、自分で罠を作って遊んでるのね。ヤバいわ」
そっと扉を閉めて、その場を後にした。
* プリースト部 *
「え?ちょっと!誰も居ないじゃないの!?」
埃をかぶった備品や机は、随分と長い間誰も出入りしていない事を示していた。
「……これ本当にマズいわよ」
リースは慌てて保健室へと戻った。
「……これで良し!」
保健室の入り口に大きく『新人プリースト募集!今なら格安で特別授業有り!』と書かれた張り紙をセロハンテープで張り付けた。
「現役シスターの特別授業よ。これでこの学園は安泰ね。……で、貴方たちは希望者かしら?」
保健室の椅子には、リースが不在の間来ていた怪我人が数人並んでいた。
そして全員が同じように首を振る……。
(治療代取ろうかしら?)
リースは心の中で強く思った。
「ふ〜。やっと終わったわ……」
日が落ちた頃、リースの勤務時間が終了する。
椅子にかけてある鞄を取ると、足早に廊下へ出て施錠する。
「ん?」
リースの視線の先には例の張り紙が。……しかし『格安』の部分が消されており『無料』に書き換わっていた。その下には小さな文字で『生徒からお金を取らないでください。by教頭』と書かれていた。
「げ……」
リースの心は今にもへし折れそうな気持ちになった……。




