保健室の先生
学園ものをやりたかっただけなんだ。許して
仄かに薄暗いダンジョンの中は、ひんやりしていて触る物全てが冷たかった。
購買部で買ったお気に入りの剣も、刃こぼれすら愛おしい。
目の前に居るドジでマヌケでトンマなシーフは、宝箱を解錠する間私が感傷に浸るのに十分な時間を与えてくれた。
「おい、まだなのかよ」
「待ってくれよ~。くそぉ……何で開かないんだよ~」
宝箱は開かないまま、いたずらに時間だけが過ぎていく……。
「おい、時間無くなるぞ!」
「も、もう少しだから!」
俺の貧乏揺すりは最高速度。そろそろ待てなくなってきた……。
「あ、開いた――」
「おっしゃ!俺が開ける!」
もたつくマヌケを差し置いて宝箱を開けると、中から石つぶてが飛んできて俺の顔にめり込んだ……。
……
…………ほえ?
「あ、気が付いた?」
そこはいつもの保健室だった。
いつもとは違う保健の先生。
優しい笑顔で俺に笑いかけてくれる。
「トウマ! ああ、良かった~」
鬱陶しい顔で近寄るゴンベはいつも通りのマヌケ面だ。
「良かった~じゃねえよ!お前また解錠失敗しやがったな!!」
「ご、ゴメンよ~!」
ゴンベが怯えた顔で謝った。
「ちぇっ!また追試だよ……」
保健室のベッドから起き上がると、顔の傷を撫でて具合を確かめた。気を失っただけで異常は無さそうだ。
「追試程度で済んで良かったわね。これが本番なら皆死んでたわよ?」
この保健の先生は、たまに笑顔で恐ろしいことを言う人だ。
隣でゴンベが凍ってやがる……。
まだこの学園に来て間もないが、ミステリアスな雰囲気と衣服の隙間から見える身体の傷。恐らくは幾多の修羅場を潜ってきたのだろう……。
ただ、俺に向けられる笑顔は天使の様に爽やかだ!
「すみませんリース先生。御世話になりました」
俺達は先生にお辞儀をすると、保健室を後にした。
「あの先生って美人だけど、ちょっと怖いよね……」
ゴンベが小声で話しかけてきた。
「女はミステリアスな方が良いんだよ」
「打ち所でも悪かったかな?」
ゴンベが俺の顔を覗き込んできた。死ね。
廊下の先から見知った顔が歩いてくる。
金髪の眼鏡をかけたエルフの女性は、この学園の生徒会長様だ。歩き方から何まで全てが美しい。
「あら、ごきげんよう」
「え、あっ、はい!おはようございますっス!」
見事なまでに詰まってしまった。恥ずかしい。
ゴンベがニヤニヤしてやがる。後で殴るか。
「ふふ、もうお昼過ぎよ。午後も頑張ってね」
生徒会長様は優雅に廊下を進んでいった。
柑橘系の残り香が俺の鼻を幸せにする……。
「……何だよ」
何か言いたげなゴンベの顔を睨みつけた。
「いや、何でも無いよ。それよりお昼まだでしょ?食堂で何か食べようよ?」
「勿論ゴンベの奢りな!」
「ちぇっ!」
俺達は食堂まで小走りで向かっていった……。




