地下7階 ①
落とし穴に落ちたリース達は軽やかに受け身を取ると、一瞬にして自分達の気配を消すと同時に周囲への警戒、状況整理を始めた。
落ちた先は小部屋の様で、辺りには大小様々な死体、骨、道具類が散乱していた。
「エル、大丈夫か?」
「ああ」
「リース」
「ダメ、呪文禁止区域よ」
呪文禁止区域:ダンジョン内で壁や天井に含まれる特殊な鉱石が呪文詠唱を阻害する小部屋。小部屋内では呪文は一切詠唱する事が出来ない。
「しっ! 人型3、プチドラゴン2、来るぞ――」
小部屋の奥から大きな手の青い巨人が3体現れた。
その隣には巨人の腰程の大きさの赤いドラゴンが2体居た。
巨人達はお互いに顔を合わせ、罠に掛かった動物をどう料理するか話し合うかのように、楽しげで不気味な笑みを浮かべこちらを指差すのであった……。
「ドラゴンからだ!フェリーは隠れずかわし続けろ!」
リーダーが掛け声と共に先制攻撃を仕掛ける。
リーダーの大剣がドラゴンの胴体を捉えるが、致命傷には至らなかった。
「ちっ!相変わらず硬いな」
続いてフェリーが素早く飛び回り、先程ダメージが入ったドラゴンの顔を狙い、素早く小刀を目に突き立てた。
目をやられたドラゴンは、その場にうずくまり動かなくなった。
その間にエルは青年をおぶったまま、一番狙われにくい場所へ移動した。
リースは懐からダーツを取り出し、敵へと投げつけた。
ダーツには即効性の麻痺薬が塗布してあり、ダメージは期待できないが敵の動きを封じるのには最適であった。
ダーツは青い巨人達に見事突き刺さり膝を着き思うように動けなくなったが、ドラゴンには硬い鱗で弾かれてしまった……。
「ブレスが来る!避けろ!」
リーダーの掛け声と共に全員がドラゴンの挙動に注意を払う。
ドラゴンは頬を膨らませると、口からおぞましい腐敗臭ガスを吹き出した!
ドラゴンから見えない位置へ逃げるエル。
上手くドラゴンの注意を引き、自分の方へ誘導するリーダーとフェリー。
ドラゴンが天井に居るフェリーへ腐敗臭ガスを吐こうと頬を膨らませた瞬間、リーダーがドラゴンの首を切り落とした!
「流石リーダー!」
フェリーが最初に動かなくなったドラゴンにトドメを刺す。
「こいつらは物理専門だ!喰らわない様にだけ気をつけろ!」
リーダーが実に難しい注文をする。
「おいおい、無茶……言うなって!」
エルが青年をおぶったまま巧みに逃げ続ける。
「そろそろ薬切れるわよ!」
リースが叫ぶのと同時に巨人達は起き上がり、3体同時にリースへ突っ込んできた。
エルを護衛する様に動いているリーダーはリースの加勢には回れない。
フェリーが1体の背中を斬りつけこちらへ注意を向けるが、もう2体が止まらない。
大きな手がリースを掴もうと襲いかかる!
リースは、敵2体と自分が常に直線になるよう避け続けた。
こうすれば後ろの巨人は味方が邪魔で攻撃が出来ない。
――それが一瞬の油断に繋がった。
攻撃出来ないと思い、片方への注意が疎かになったのだ。
気が付いた時には目の前に巨大な手が迫っており、咄嗟にガードするも、リースはもう1体の巨人諸共痛烈な平手打ちを喰らってしまった……!!
吹き飛ばされ地面へ転がるリース。
打ち所が悪かったのか、中々起き上がることが出来ない。
一緒に飛ばされた巨人は、リーダーが素早く首を刎ねた。
フェリーはまだ巨人と格闘しており、巨人の身体には小刀による斬り傷が至る所にあったが、巨人は未だ倒れる気配が無かった。
「エル!キュアポーション!!叩き起こせ!!」
巨人の首を刎ねたリーダーは、冷静に味方に回復の指示を出す。
もう1体を止めないと、また誰かがやられてしまうからだ。
懐から黄色の液体が入った小瓶を取り出し、リースへかけるエル。
中身を全て使うと、リースの背中を蹴り飛ばした!
「いっっつぅ……ぅ!相変わらず荒いのね……!」
このまま倒れていると、攻撃の的になるため是が非でも起き上がるリース。
「お前が死んだら誰が俺達を蘇生するんだ?」
エルがニヤニヤと笑う。
フェリーが引き付けていた巨人がようやく倒れた。
残る1体もリーダーが正面から戦い、フェリーが隙を見て急所を突きトドメを刺した!
長い戦闘の末、小部屋に静寂が訪れる。
巨人達が落とした青銅の宝箱。
「ダメだ、高圧電流だ……」
フェリーが少し調べただけで諦めた。
高圧電流は良くて死亡、最悪跡形も残らない最強最悪の罠である。フェリーはどんなに自信があろうが、この罠の時は罠解除しないようにしていた。
「全員ポーションで回復だ」
リーダーは懐から人数分回復ポーションを取り出した。
皆は受け取り、体力を回復させる。
「おそらく青年の死体は奴らの罠だろう。助けようとして落とし穴に落ちる。落ちた奴をここで仕留めて、また上に置く」
リーダーが冷静に分析する。
「すまねぇ、俺が不注意なばかりに……」
エルが素直に頭を下げた。
「いや、多分罠の起動スイッチは他にもあるだろう。エルが押さなくても誰かが押してたさ」
リーダーが項垂れるエルの肩を優しく叩いた。
「さて、恐らく小部屋の先に奴らのたまり場が在るはずだ。次の奴らが来る前に行くぞ。先へ行けば呪文も使えるはずさ」
リーダーは先頭を静かに歩き出す。
フェリーは頭上で周囲を警戒し、リースはリーダーの後ろをただひたすらに信じてついて行くのであった……。
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