死地より愛を込めて ⑥
暗黒の地下8階。
呪文による光さえも遮る漆黒のダークゾーン。
完全に手探りで進むしか無い道程は、来る者を拒む様に冒険者を突き放しにかかっていた。
「いたっ!!」
手に残る電撃痛。
これで何度目だろうか……。
壁に張り巡らされた魔の結界は、触れると電流を流れる仕組みになっており、手探りで進む冒険者を殺しにきているとしか言えないえげつなさがあった。
「完全に誰かの悪意を感じるわね」
コットンに治療をして貰いながら、サキは先頭を進み続ける。
「あ……」
ダークゾーンを抜けた先は小部屋だった。
小部屋の中心には魔方陣が描かれており、それ以外に何も無かった。
「…………」
サキとアンナは魔方陣の模様から、誰を呼び出す儀式なのかを紐解いていく……。
「あ、姉上……これって……」
「……帰りましょ」
「何だ?それは何なのだ?」
ナデシコが後ろから様子を覗う。
「この魔方陣から出て来るのはおそらく……神よ」
サキは一歩後ろへ下がった。
「……神?」
「ええ。神と言っても種類は様々。どんな神様が出るかは分からないけれど、最上級のヤバ物が出ることは間違いないわ……」
サキは更に一歩後ろへ下がる。
「呼び出せないのか?」
ナデシコが前へ出る。
「は!? 全員死ぬのがオチよ!」
サキは前へ出たナデシコを引き留める。
「……私はもう帰る場所が無いのだ。どうせ死ぬなら最後に神とやらを拝むのも良かろう……」
ナデシコはサキの静止を振り切り、魔方陣の前へ立った。
「なら勝手にどうぞ!私達は帰るわ! 神をも操る奴なんて相手に出来ないもの!」
サキとアンナは急いで小部屋から出ようとした。
ナデシコが魔方陣を見つめると、魔方陣は緑色の光りを放ち始め一瞬のうちに辺りは光りに包まれた!
「あのバカ!!」
サキはナデシコの下へ駆け寄り、腕を掴んで引き付けた!
光りが消えると、徐々にその姿が露わになる……。
やけにしわがれた皮膚は引きつるように歪んでいて、関節が外れたように奇妙な曲がり方で前へ伸びたまま、かぎ爪だけがカサコソと小さく動く。
身体に似合わず細い脚は今にも折れそうな位に弱々しく、その姿は何者でも無く、ただただ醜かった……。
「……おお、神よ」
ナデシコが手を伸ばすと、指先から水気が引くような感覚に襲われた。
ナデシコの手は一瞬のうちに老婆の如く生気を失い、細く弱々しい手に変わってしまった。
サキとアンナは、なまじ相手の格を知れるあまり、足が竦みその場から動けなくなった……。
「な、何なのこの圧は……!」
何とか後ろを向き逃げようとするも、足が地面を滑り空回りしてしまう。
コロリとブーツが外れ、その目に映る自分の足は、やけに細く生気を失っていた……。
「……神よ。私を殺してくれ……」
ナデシコは両手を前へ突き出し、信仰心から抱き付こうとする。
いや、全てを投げ捨て自暴自棄になった彼女の最後の頼みの綱だろう。その先に望むのは『死』であった。自害する勇気も無く独りよがりの彼女の最後のワガママだ。
転びながらもおぼつかない足取りで逃げようとするサキとアンナ。ついに立ち上がることが出来なくなり、身体は老いた様に醜く、その美貌は見る影も無くなっていた……。
「……死……にたく……な……」
次第に2人は乾ききった様に動かなくなり、その身体は塵と化していった……。
カッ カッ カッ ビリッ!!
「……ッ!」
あの場からいち早く逃げていたコットンはダークゾーンをさ迷っていた。
「……道が分からなくなったぞ」
闇雲に動けば壁の電流が命を削る……。
マッピングした地図はアンナの荷物入れの中だ。
「回復呪文もあまり余裕が無いな……」
諦めたコットンはその場に座り込み、動くのを止めて救助を待つ事にした……。




