死地より愛を込めて ③
ベネット 1
頭はサイ、身体は人間の、筋肉の塊の生き物は幾多の冒険者を葬ってきたであろう曲刀を荒々しく振り回し、『かかってこい』と言わんばかりに胸を張っては片足をグリグリと地面に擦りつけている。
カリンの放った矢が顔の側を通り、エルの放った火炎弾が曲刀に弾かれる。
リーダーが正面から斬りかかる!
ベネットはリーダーと同時に脇腹を突こうとしたグレイの槍を掴まえ、手前に引いた。
突如倒れ込むように現れたグレイを避けようと、リーダーの剣筋が鈍った。
リースはフェリーに目配せをすると、分身呪文を唱え始めた。
呪文をかけられたフェリーから静かに漏れ出る幾つかの白い霊体は、速やかにフェリーと同じ形を司り、素早く交ざるとどれが本物なのかリースにも見分けが付かなくなった。
無音で飛び回るフェリー達はベネットの周りを取り囲み、一斉に小刀を構えては襲いかかる!
「……ガハッ!」
ベネットは的確に本物のフェリーの胴体を鷲掴みにし、岩壁に投げ捨てた!
フェリーが岩壁にぶつかる音は鈍く、骨が軋み肉が裂ける音がした!
「フェリー!!」
リースが慌てて駆け寄るが、地面に倒れたフェリーから反応はおろか生きているのかすら怪しい状況であった。
すかさず治癒呪文を唱えるリース。徐々にフェリーの傷が癒え、生きていることは確認できた。
カリンの二の矢が音も無くベネットの目を狙う。
キィィイン!
曲刀で矢を弾いた瞬間、ベネットの脇腹からグレイの矛先が現れる……。
「やっと一撃入れたぞ!サイ頭め――」
腰をひねり腕を振り回すベネット。
グレイの頬にベネットの拳がクリーンヒットし、グレイは頭から地面へと叩きつけられた!!
ベネットは槍を引き抜こうとするが、刃についた返しが力を込める度にベネットの身体を更に引き裂こうと苦痛を与える……。
「ブフォォ!!」
背中の左側から深々と刺さった槍は抜けず、ベネットは次に迫り来る驚異を察し、槍を抜くことを諦めた。
リーダーは手負いの左脇腹を狙い、刀身を盾にしながら蹴りを入れた。
痛みでベネットの目が血走り、口からは苦悶のヨダレが滴り落ちた。
そのヨダレが気化して無くなるほどの高熱火炎弾がベネットの横顔を襲う!
サイ頭の皮膚が少し焦げ、顔付きが更にけわしくなった。
「ブオオオオオオ!!」
ベネットは曲刀を右手左手と何回か持ち替え、派手にヨダレを撒き散らしてはエルへと向かってきた!
「おいおい!!」
武器を持たないエルは致命傷を避けるように両手で顔や胸を守り、いかなる攻撃にも対応できる様に回避の姿勢を取った。
手負いのベネットの瞬発力にリーダーは反応できず、エルへ向かうベネットより数歩遅れてフォローへ回り始めた。
猪突猛進に進んだベネットはエルの鳩尾に拳をねじ込んだ!
圧倒的な筋力の差に、エルは防御も虚しく全身から悲鳴が挙がるのを一瞬にして感じ取った……。
「グガッ……ハ……!!」
エルの力が抜けていく……。
ベネットは姿勢を低くし、鼻先の大きな汚れた角に全身の力を込めて、一息にエルの腹を押し抜いた。
「エル!!!!」
「野郎ォォォォォ!!!!」
背骨の砕ける音。
裂ける肉に飛び散る血はベネットの身体を染め上げては勝者の風格を演出する。
深々と貫かれたエルの瞳は生気を失い、少し前まで彼が冗談を言うような人には見えないほどに変わり果てていた。
「あ……。ああ……」
目の前で誰かが傷付き、時に死ぬ。
それは日常であり、ここでは当たり前の事。
しかし、それでも近しい人が目の前で死ぬのは耐えられない事なのだと、頬を伝わる涙の雫がはっきりと物語る……。
後ろを振り向くベネット。
角に刺さったままのエルに反応すること無く、リーダーは大剣を払った!
ギイィィィン!!
金属と金属がぶつかる音が辺りに響く……。
本能と意地の迫り合い!
リーダーとしての務め!
男としての戦闘心!
仲間としての怒り!
冒険者としての熱き心!
全てを込め、ベネットと対峙した!
ベネットの曲刀はガリガリと音を立てながらも、パンパンに膨れ上がった筋肉でリーダーを徐々に押し戻す!
「く……クソがぁぁぁ!!」
いかなる想いを込めようが、目の前に居る驚異は揺るぐこと無くリーダーに立ち塞がる!!
リースの涙が地面へと落ち、音を立ててはじけ飛んだ……。
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