無駄に熱い闘い
たまには脱線
リーダーとリースの間に重苦しい緊張感が漂っていた。
二人はお互いに殺る気を放っており、隙あらば……と言った感じで誰も寄せ付けない空気を放っていた。
「やるわね……」
「今日は本気だからな!」
リーダーが椅子に座ると、リースは立ち上がり標的を鋭い眼光で睨み付けた!
「いるかい?」
エルの言葉に酒場のマスターが無言で天井を指差した。
奥にある螺旋階段を登り2階へ上がる。エルの視線の先には1台のビリヤード台に向かい本気で勝負するリーダーとリースの姿があった。
「またやってんのか」
呆れ半分に近くに席に座るエル。
「うっさい、今良い所なのよ!」
本気の顔でエルを睨み付けるリース。
「おお、こわ……」
思わず顔を背けてしまう。
酒場の2階は元々倉庫となっており営業中も使っていなかったのだが、酒場のマスターが整理しビリヤード台を置き、興味本位でリース達が始めたのが元々のきっかけだった。
最初は遊び半分だったが、ある日小銭を賭けた時に負けず嫌いな2人の顔色が変わり血相を変えて争うようになった。
リースはグリグリとチョークをキューに塗りたくり、鼻息荒く⑤が穴へ向かうようキューで指示した。
不格好ながらキューを構え、ガチガチのストロークから豪快に押し出された手球は⑤をかすめ⑨に当たり、⑨が⑥に当たって⑥をポケットした。
「おし!!」
恐らく女性にあるまじき掛け声と荒々しいガッツポーズは、まるで初めから⑥を狙ったかの様に見えるが肝心の⑤は少し動いただけだった……。
「こいつの命も後少しよ……」
リースはチョークをグリグリし、鬼の形相で再び⑤に狙いを集中させる。
(リースってこんなキャラだったか?)
エルは酒を飲みながら優雅に観戦を決め込んでいた。
キューから放たれた手球は⑤にヒットし、1度クッションを挟みサイドへポケットした。
「いよっしゃ!!」
喜びも束の間、リースの撞いた手球もコーナーへ吸い込まれるようにポケットしてしまう。
「ガッデム!!」
もはやヒステリックとも言える言動に、エルは笑いを堪えるので必死だった。
ドカッと座るリースを余所に、リーダーはチョイチョイと小さくチョークをキューに着ける。
リースよりは幾分かまともなストロークは、経験の差を感じた。
しかし、乾いた音と共にリーダーの手球は台から飛び出し地面へと転げ落ちる……。
「………………」
リーダーはガクッと背中を丸め、席へ戻る。
(見てて飽きねえな)
エルの隣には酒瓶が並んでいた。
しばらくの間、外した入れたで混戦が続くも接戦を勝利したのはリースだった。
「くそぅぅぅ!!」
本気で悔しがり、床を叩くリーダー。
リースは机に置いてあった掛け金を袋へ入れ、悠々と酒場を去っていった。
「2人を見てると飽きなくて助かるぜ」
席を立ち、ラックを組むエル。
リースが使っていたキューを手に取ると、2〜3回扱いて美しいフォームでブレイクをした。
強烈な音と共に勢い良く散った的球は、ラシャの上を走り抜け次々とポケットへ吸い込まれる。
ボールが全て止まった時には、台の上には5つしか球が残っていなかった。
「……え?」
リーダーが驚くのも束の間、残りの的球を20秒と掛からず全てポケットしていくエル。
「あんまり本気になって喧嘩するなよ」
キューを元に戻すと、エルは静かに階段を降りて行った。
「師匠!!
お願いします! 私にビリヤードを教えて下さい!!」
リーダーの情けない声が酒場中に響き渡った……。
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