地下5階
1ミスが命取りとなるハードモードなダンジョン地下5階に到着したリースたち。
地下5階に到着したリース達。
空気も一段と重く、魔物の匂いもキツい。
リーダーは地図を確認し、その間他の面々が周囲を警戒する。
「リーダー。一先ず大丈夫そうだ」
「ああ、いつも通りのルートで頼む」
地図をポケットへ入れるリーダー。
「リース、方位呪文を頼む」
「ええ」
リースが静かに詠唱すると、リーダーの足下に小さな魔方陣が浮かび上がった。
魔方陣には矢印が書かれており、常に北を示していた。
「……行くぞ」
リーダーの目つきが変わる。ここからは一切の遊びは無しだ。
一瞬の油断が死を招く事を、ここに居る全員が理解していた。
細い通路をしばし進むと、リーダーが止まれの合図を出した。
「……ゾンビプリーストが2体。ウサギが4匹。後10秒程でそこの角を来るぞ」
リーダーが敵の気配を正確に感じ取った。
全員が戦闘態勢を取る……。
メンバーで唯一魔法が使えないリーダーだが、その察知能力の高さと的確な戦術。
何より戦闘能力の高さ故、リース達のリーダーを務めている。
そして、ここに居る全員がリーダーを信頼していた。
「敵識別呪文、武器強化呪文展開」
リースが素早く全員の身体に小さな魔方陣を貼り付ける。
目の前の曲がり角から小さな目つきの悪いウサギが4匹現れた。
次いで後ろから腐敗した僧侶が2体、リース達と目が合った!
「エル! 炎!!」
リーダーが指示を出しながら、ウサギを1匹両断する。
「オーケー!」
魔法使いのエルが火炎弾をゾンビプリースト2人に向かい放つ!
ゾンビプリーストは炎に飲まれ崩れ落ちた……。
フェアリーのフェリーは小さい身体を活かし、ヒットアンドウェイで敵を攪乱する。
フェリーを見失うウサギ達。諦めてリーダーを襲おうとした瞬間、ウサギ達の首は地面に落ちていた。
「リーダー、終わったよ」
小刀に着いた血を拭うフェリー。
ゾンビプリーストが落とした宝箱が目に入る。
「リース。警戒呪文」
「異常なし。敵の全滅を確認」
「フェリー。宝箱はどうだ」
「罠アリ。毒ガスだ。中身は……剣が2本だね」
まだ開けてない宝箱を調べ、中身まで見抜くフェリー。
「オーケー、無視だ。先へ進もう」
宝箱が目的なら開けても良いが、今回は目的が違う。
無用な危険は避けるに限る。
目先の欲をかいた者から死んでいくのがダンジョンの恐ろしいさだ。
リースは横目で宝箱を見ると、名残惜しそうにその場を後にした。
「次の小部屋はモンスターのたまり場だ。エルとリースの呪文で一掃する。俺とフェリーは生き残りを始末だ」
不気味な岩肌の窪みに冒険者と思われる髑髏が置いてあり、扉には血文字で*酒場*と書かれていた。
「数が多すぎて正確には分からないが、リザードマンが3体……オークメイジが1~2体、ウサギが6匹……ゾンビプリーストが4体だろう」
五感を研ぎ澄ませ、敵の気配を探るリーダー。
「オークメイジが1体なら俺かフェリーがやる。2体以上なら呪文組に任せる。オーク、ウサギ、プリーストの順だ。いいな皆」
黙って頷くメンバー。
扉を開け、中に突入するリース達。
小部屋の中は酒の入った棚で四方を囲まれており、即席の椅子や机に腰掛け、酒を飲む魔物達が居た。
突然の来訪に驚く魔物達は取り乱す事は無かったが、束の間の休息を邪魔されたかの様に、素早くまた正確無比な隊列でリース達を出迎えるのであった。
「オークメイジ1体だ!」
リーダーの叫びと共にフェリーの鋭い一撃がオークメイジの喉元に突き刺さる。
エルは火炎弾をウサギ達にぶち込んだ!
ウサギ達は残らず消し炭と化す。
リースは聖呪文で腐敗した僧侶達を浄化し残らず消し去った!
仲間が次々とやられる最中、3体のリザードマンが三位一体でリーダーに襲いかかった!
一撃目を躱し、二撃目を盾で抑える。最後のリザードマンが盾の利かないリーダーへ斬りかかるが、リーダーの一振りでリザードマンは剣ごと上半身を両断されてしまった。
分が悪さに後退りし逃げ出したリザードマン達。
しかし、彼らが身体が部屋の外へ出ることは無く、落ちた頭だけが部屋の外へ転がっていった……。
「リース」
「異常なし、殲滅を確認」
「フェリー、戦果の程はどうだ」
「盾と呪文書、鉄の宝箱が1つだね。罠は爆弾だ。中身は鎧とお金……かな?」
リーダーは少し考えた。
「エル、リース、宝箱の識別呪文を頼む」
エルとリースが呪文を唱えると、エルの右眼に魔方陣が展開された。
「大丈夫、爆弾で合ってるよ」
「ええ、私もよ」
宝箱の罠識別は3人で行い、全員の意見が一致するまでやり直される。
それがこのパーティのルールであった。
フェリーは慣れた手つきで宝箱の罠を解除すると、静かに宝箱を開けた。
中には使い古した鎧と、小額の小銭が入っていた。
「リース、鑑定を頼む」
先程とは別の呪文を唱え、今度は左眼に魔方陣を展開したリース。
「大丈夫、ただの皮の鎧みたい。売っても200Gってところかしら?」
リースの鑑定眼に狂いは無い。初見の物でもその価値が判る。
「よし、いよいよ6階に下りるぞ。鎧はエルが持っていてくれ」
埃が厚く被る階段をそろりそろり下りていくメンバー達。
カビ臭く、歩いた箇所に遺る足跡はここしばらく誰も出入りしていない事を物語っていた。
「……いくぞ」
リーダーが静かに先頭を進むのであった……。




