冒険者リース
*おおっと!*
焼死! 灰! 石化! 首チョンパ!
「あーあ……。見事にやられたわねぇ……」
運ばれてきた棺を開け、シスターはため息をついた。
「石化はいいとして、他は確率低いけどいいかしら?特に灰は失敗しても文句言わないでね」
さらりと言うシスター。この念押しの台詞も何度目だろうか……。
「じゃあ、この誓約書にサインして。あと、その物騒な武器は後ろの箱に入れてね」
誓約書を書かないと失敗した後に文句を言う人がいるからだ。
武器を箱に入れるのもシスターの首が飛ばない様にする為。
彼女の衣服の隙間から見える傷痕が、過去のいざこざを物語ってた。
……ささやき ……詠唱 ……祈り ……蘇生!!
とりあえず、石化したメイジと灰になったプリーストは蘇生出来た。
「どうします? 後はそちらのプリーストさんにお任せしますか?」
シスターは蘇生間もないプリーストの顔色を伺う。
「すみません、私ディーしか使えないので無理です」
ディー:蘇生呪文の一つ。蘇生率は極めて低い。ザオ○ルより低い成功率為、冒険者たちからは「失敗すると生き返る呪文」もしくは「仲間を灰にする呪文」と呼ばれている。
「じゃあ、残りの方も私が……。 お二人は外で待機をお願いします」
肩を回し、気合を入れなおすシスター。
……ささやき ……詠唱 ……祈り ……蘇生!!
首が繋がってゆく遺体。傷も癒え起き上がった!
一方、焼死体の方は灰になってしまった……。
「すみません、お一方しが蘇生出来ませんでした……」
残念そうな顔をした後、灰を持ち立ち去る冒険者たち。
「おっと、もうこんな時間だわ……」
寺院の戸締りをし、身軽なローブに着替え、
入り口に「closed」の札をかけるシスター。
意気揚々とダンジョンの入り口へ向かう……。
「おまたせ〜」
シスターが1人の男に手をふった。
「ああ、大丈夫。時間通りだ」
木に寄り掛っていた長身な戦士が答えた。
黒髪に大きな剣。顔には大きな傷が3つ程あった。
「エルとフェリーは?」
「エルはいつも通り遅刻。フェリーは上に居るよ……」
と戦士が頭上を指した。
すると、木の茂みから、1匹のフェアリーが飛び出した。
「やあ、シスター! 僕ならここにいるよ」
現れたのは体長20cm程の小さな男の妖精であった。名はフェリーという。
「ダンジョンではシスターじゃなくて、名前で呼んで頂戴!」
プリプリと怒るシスター。
「ごめんごめん。悪かったよリース」
拝むように謝るフェリー。
「おう、おう。すまん、待たせたな!」
ズカズカと歩いてくるエルフの大男が1人。
「エル!いつも遅いぞ!!」
フェリーがプンスカ怒っている。
「よし、全員揃ったから今日も行きますか!!」
リーダーの男が声をかける。
「OK リーダー!!」
その声に全員が気合十分で答えるのであった。
慣れた隊列でダンジョンへ入っていくシスター達。
――いや、ここからはリース達と言うべきだろう。
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薄暗く不気味な冷やかさを放つ岩壁のダンジョンをリースの光呪文で照らす。
「おい、今日は何人灰にしたんだ?」
エルフの大男エルが不躾に尋ねた。
「今日は調子が良いの!!」
偉そうに答えるリース。
「で?通算成功率は?」
ニヤニヤしながら聞くエル。
「……それは聞かないお約束よ」
拗ねるリース。
「して? リーダー今日の予定は?」
エルが先頭を進む戦士に問いかける。
「ああ、今日は地下6階の探索だ。未探索地域に入るぞ。心してかかれ」
未探索地域……その言葉に全員の緊張が高まった。
常に危険と隣り合わせのダンジョン。
地下へ進めば進むほどモンスターが強くなってゆく。
現在確認出来ているだけで地下8階。
シスターリースも地下8階は数えるほどしか入った事が無い。
中でも未探索地域はトラップやモンスターがまだ知られていない。脅威も未知数だ。
その分お宝も手付かず!期待値は高い!
「それと、1つ依頼を受けている。未探索地域で行方不明になった人間の捜索依頼だ。むしろメインはこっちだな。依頼人の報酬が良い」
親指と人差し指で輪を作るリーダー。
金の臭いに反応するかの様にエルの気合が入った。
「へへっ!今夜はごちそうだな♪」
地下2階へ降りるリースたち。
地下2階には落とし穴があり、そこから地下5階まで直通になっている。
暇な時にリーダーとエルで作ったらしい。
「さて、行くか……」
落とし穴の前で気持ちを落ち着かせる面々。
そして次々と落とし穴へ落ちて行った……。