新人研修 ③
「ど、どうも~……」
慣れない酒場に戸惑うハリー。
日が落ちて、夜の灯りが輝きだす頃。
いつもの酒場に昼間の新人達も加わった。
「おぅおう!! 遅ぇぞ!!」
既に出来上がったエルが早速噛み付いてきた。
「すみません、色々とありまして……」
ペコペコと謝りながら席に着くハリー。
後ろに居たニーナとコットンも
ゾロゾロと席に着く。
一番奥のテーブル席。奥にリーダーとエル。
手前に新人3人が座っていた。
「あれ?ドワーフのお嬢ちゃんはどした?」
エルが辺りを見渡す。
「すみません、彼女はこういう所は苦手でして……」
ハリーが申し訳なさそうに頭をかいた。
「なんでぇ……つまんねーの!」
不機嫌そうに肉を齧るエル。
「それでは今日の反省会を開きます!宜しくお願いします」
少々ぎこちないリーダー。
新人達の前で少し緊張している様だ。
落ち着きが無い。
「まずは各自の反省から。どうぞ!」
「剣の腕前に問題がありました……」
ハリーはやや俯き加減で話した。
「私は特に問題無かったかな~?」
エルの皿の肉を齧り始めたニーナ。
「こ、恐くて何も出来な……」
コットンは座った直後から震えていた。
全員の反省を腕を組みながら聞くリーダー。
エルは酒を浴びながらふんぞり返っていた。
「よし!分かった!改善点は山ほどあるが、今日は1人一つずつ直して貰おうか」
リーダーが冷や奴に手を伸ばす。
「まずは僧侶くん」
呼ばれたコットンはビクンと驚き、
モジモジと身体をくねらせる。
「君はそのままでいい」
リーダーの意外な言葉に驚くハリー。
「僧侶は換えが効かん。怖がり位がちょうど良い」
「ははっ、ちげぇねえな!」
リーダーとエルの頭には無鉄砲なリースが浮かんでいた。
「次、魔法使いの君」
呼ばれたニーナは肉に伸ばした手を
引っ込め姿勢を正した。
「君はサポートに回りがちな所がある。今日みたいな時は殲滅優先で、攻撃呪文を使いなさい」
リーダーの言葉に無言で頭を下げるニーナ。
「最後にメガネのリーダー」
「君は大剣を売りなさい。そして小さい奴を買いなさい」
ショックを受けるハリー。
「これはリーダーさんに憧れて……」
「非力なエルフには大剣は不向きだ。実際今日も芳しくなかったろう?」
言葉も出ないハリー。
リーダーの指摘が痛いほど刺さる。
「ま、こんなとこだろう」
エルの方を見るリーダー。
当のエルは隣のテーブルに座る
女エルフを見ていた。
「ん?ああ……ま、そんなとこだな!」
適当な相槌を打つエル。
「それとドワーフの彼女にはまともな防具を着けてやれ。そうすれば肉壁になるぞ」
「お金が貯まり次第すぐに揃えます……」
色々と指摘され針のむしろと化すハリー。
「よし!反省はここまで!後は飲もう!今日は俺のおごりだ!!」
その言葉に素直に喜ぶニーナ。
ハリーは深々と頭を下げた。
コットンは最初よりは震えが収まった様だ。
「私エルさんの武勇伝聞きたいです!」
ニーナが手を上げ話を切り出す。
「よし!聞かせてやろう!」
酒が進んだエルはあること無いこと
昔の話まで色々と話し始めた……。
「まずリーダーとの出会いはだな――」
「気付かなくてフェリー踏んじゃって――」
「地下4階の回転床は――」
「詠唱の短縮のコツは――」
「酒場の樽の中に転移しちゃって――」
「ここをこうして、こうすると――」
「エルさんとニーナ、凄い盛り上がってますね……」
慣れない酒を飲みながら、
ハリーは昼間の事を思い出していた。
「あいつがあんなに誰かと親しくするなんて珍しいな」
リーダーは静かにグラスを傾けた。
「なぁ、ハリー。俺も昔は君と同じだった……。いや、君以下だったな」
遠い目をしてグラスを覗き込むリーダー。
ハリーはリーダーの言葉に耳を傾けた。
「俺が最初にダンジョン潜った時は1人だった。1人で行けると思ったんだ。地下2階までは敵無しだった。だが、地下3階でやられてな……」
「1人で地下3階まで行ける時点で十分凄いと思いますが……」
ハリーが呟いた。
「ゾンビ3人にコテンパンにされたよ。1人が引き付け、残り2人で麻痺や眠りにする。ああ、これがチームプレイか……って」
軽く笑い、グラスを揺らすリーダー。
「運良く他の冒険者が助けに来たから良かったが、本来なら俺はあそこでくたばっていたのさ」
リーダーの言葉につばを飲むハリー。
「今の君には仲間が居る。大切にしろよ」
真っ直ぐにハリーを見つめた。
「はい!」
ハリーもまた真っ直ぐに応える。
「でな、角を曲がった先の泉がな――」
エルの話はまだ続いていた。
「エル!教えすぎだ」
リーダーがたしなめる。
「お、すまねぇ。つい喋りすぎた」
こうして新人達との交流会は幕を閉じた……。