表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/130

番外編 ~若き城兵~

番外編その①

「ちょっと、そこのパッとしないの……」


 まさか城の隅で見知らぬ少女に声を掛けられるとは……。

 俺は訓練上がりでズタボロの身体を一刻も早く休ませたいのだが、妙に良い服を着たいかにもお嬢様といった感じの少女が無愛想な顔で俺を手招きしている。


「どちら様で?」

 俺は立ち止まり少女の素性を聞いた。


 すると、少女はキョトンとした顔で俺を見、何か思い付いたかのようにニヤリと笑う。


「たまたま遊びに来た客だ。暇潰しに外へ出たいが、この形では目立つ。お前の服を貸せ」


 そう言っていくらかの貨幣を俺にチラつかせた。

 まあ、お金をくれると言うなら……金持ちの道楽に付き合うのも悪くは無いか。


 俺は給料日前の寂しさから少女に手を貸すことにした――――




「ふふ、巧くいったのぅ!」

 少女は俺と共に城から出ると、一目散にボッタ商店へ足を向けた。


「何を買うんだ?」

「当然武器に決まっておろう」


 少女はボッタ商店へ足を踏み入れると、手頃なショートソードを2つ選び、ボッタへ金を握らせた。


「これだけあれば貴様の口も硬くなるだろう。な?」

 少女の振る舞いにボッタが少々驚いたが、口を真一文字に噛み締め無言で頷いた。


「一度ダンジョンに行ってみたかったのだ。貴様も付き合え」

 少々は俺に片方のショートソードを手渡した。


「おいおい、お前の様な華奢な女がダンジョンなんか行けるわけがないだろう?」

 と、言葉にした瞬間に、俺の鼻先にショートソードが向けられる。


「剣の心得はある。安心してついてくるが良い」

 凛々しい表情から放たれる謎の自信に押された俺は、仕方なく追いて行くことにした。



「おお!これがダンジョンか!!」

 初めて見るダンジョンに興奮した少女は大声で叫びながらあちこちを見て回った。


 当然大声を出せばモンスターが来るわけで…………。


「おお!これがスケルトンか!! 骨が動いてるぞ!!」

 遊び半分でスケルトンを弄び、次々と撃破していく少女。

 自分で言うだけあって剣の腕前は中々だ。


 少女はズンズンと奥へ進み、地下3階に差し掛かろうとしていた。流石にこれ以上は危険だ。俺は少女に帰るよう促した。


「私は無傷だ、まだ行ける」

「駄目だ!地下3階にはウサギが居る!」

 しかしいくら説得しても少女は聞く耳を持たない。


「ならば私1人で行く!貴様はもう帰れ!」

 ズカズカと歩き出した少女。俺は途方に暮れ、仕方なく追いて行くことにした。


「あれか?ウサギってのは」

 少女が指差した先には、ガリガリと骨を齧るウサギ達が居た……。


  リーパーバニー 3


「どうせただのウサギだろ!」

 少女はショートソードを振り回す……がウサギ達は軽やかに身を躱すと少女の肩に齧り付いた!


「痛っ!!」

「危ねぇ!!」

 俺は少女の肩に付いたウサギの背中を斬り付け、地面に落ちた所をトドメに一突き入れた。


「大丈夫か!?」

 少女は肩を押さえて眉間にしわを寄せている。肩から軽く血を流しているが、大事には至っていないようだ……。


「この高貴な私に何をするか!!」

 少女は怒りに任せ剣を振るうがウサギ達は嘲笑うかの如く身を翻して躱し続けた。


「痛い!!」

 ウサギ達は猫が獲物をジワジワと嬲るかの様に少女の足を少しずつ傷つけていった。


「ほら!言わんこっちゃない!!」

 俺はウサギ達を見据えると、軌道を読み、的確に頭を潰していった。


 全てが終わったとき、少女は地面に座り込み立てなくなっていた。


「ほら、帰るぞ」

「…………いやだ」


「ならココで野垂れ死ぬか?」

「…………それもいやだ」


 困った女だ……。俺は仕方なく少女を背負い、地上を目指す。


「すまん、1回降ろすぞ」

 俺は少女を背中から降ろすと、剣を構え現れたモンスターと対峙した。


「…………」

 少女は虚ろな眼で俺を見ている。


 流石に訓練後に実戦はキツい。段々と動きが鈍ってきているのが分かる……。


「……すまん」

 ボロボロの俺を見て、少女が背中で一声出した。


「ん?すまん聞こえなかった」

「な、何でも無い!地上はまだか!」


 疲れた身体に鞭を打ちようやく地上へ戻ると、城兵達がゾロゾロと現れだした。


「デアス!!貴様何をしたのか分かっているのか!!!!」

 初めて見る兵長の本気の怒りに、俺は怯えた。


「控えよ!!!!」

 背中の少女が声を上げると、その場に居た全員が跪いた。


「この者は、攫われた私を救い出してくれたのだぞ!!丁重に扱うが良い!!」

「は!ははーー!!」

 背中の少女は近衛兵に抱えられ、その場から去って行く。


 俺は、兵長に「立場上キツく当たってしまって悪かったな。あのおてんばに付き合うのも我々の仕事だ。ま、50点って所だな」と後で言われホッと胸をなで下ろした。


 そして兵長に聞かされ初めて知る。あの少女が王の一人娘ナデシコ様だと言う事を……。




「おい、そこのパッとしないの」


 訓練後の城の片隅で俺に話し掛ける少女。


「これはこれはナデシコ様。如何なされましたか?」

「む、そんな硬くなるな。今日はお別れを言いに来た」


 どうやら話によると遠方の国に武者修行へ行くそうだ。


「お前には世話になったからな。私はもっと強くなりたい」

「そ、そうか……」


「お前は……いや何でも無いな」

 ナデシコは口篭もるように濁して去って行く。


 そして振り返り一声――――


「お前の護る姿は中々良かったぞ」


 ――――ナデシコは駆け足で階段を登っていった……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ