新人研修 ①
ある日の事。ダンジョンの入口に4人の男女が居た。
彼らはパーティを組んだばかりの新人達で、ダンションに入るのは今日で3回目だ。
リーダーのハリー。エルフの戦士。
サブリーダーのニーナ。人間の魔法使い。
回復役のコットン。ホビットの僧侶。
最後にエレナ。ドワーフの盗賊だ。
「全員体調は万全か?」
眼鏡をかけたエルフの男が細身に似合わぬ大剣を抱え、点呼を取る。
「はいはーい」
脳天気な返事をしたのがニーナ。ぶかぶかのローブにとんがり帽子。見た目だけは魔女っぽい。
「お母ちゃん、お父ちゃん先立つ不孝をお許し下さい」
手を合わせ懸命に祈るコットン。彼は足が震えており、生まれたての子鹿の様だ。
「うむ、行くだ」
どっしりとした体格のドワーフ。
パツパツのブラウスにロングスカート。彼女の服装は、とてもこれから命のやり取りをしに行くとは思えなかった。
見ているだけで不安になりそうな彼ら。早速ダンションへ入っていった様だ。
そんな彼らを後ろからつけていた男が2人。
「なんだありゃ……」
「リーダー。面白そうだぜ。ちょいと様子を見てみないか?」
それはエルとリーダーだった。
昼飯を食べていた2人の前を通り過ぎたハリー達。
2人は気になってそのまま尾行していた。
「う~ん。あまり気乗りはしないが……地下2階までだぞ?」
渋々承諾するリーダー。
「へへっ、そう来なくちゃ!」
2人は彼らの後を追い、ダンションへ入っていった。
ダンションに入って間もなく、ハリー達が戦闘しているのを見つけたリーダー。
「うおおおお!」
スライム2体相手に、ハリーが大剣を振り回していた。
しかし、エルフの細身で大剣を振るうのは辛そうで、攻撃もワンテンポ遅く中々スライムに命中しなかった。
「え~い!」
気の抜けた掛け声と共に呪文を詠唱するニーナ。
スライム一体を眠らせた。
「あわわわわ……」
手を口に入れ、隅っこで怯えるコットン。
「喰らうだ!」
眠らせたスライムにメイスをお見舞いするエレナ。
その剛腕から繰り出される一撃で、スライムを見事粉砕した。
「おお~やってるやってる」
エルが面白そうに干し肉を片手に戦闘を覗いていた。
「何だか見てて焦れったいな……」
今にも飛び出しそうなリーダー。何とか自制心を働かせる。
隅っこで震えるコットンを除き、他の3人で何とかもう一体のスライムも倒すことが出来た。
「やったぞ!」
ようやく一撃入れられたハリーは、ガッツポーズで喜ぶ。
「宝箱でたよ」
木箱をツンツンするニーナ。
「わての出番だ」
のそのそと宝箱の前へ行き、罠の鑑定を始めるエレナ。
木箱をコンコンと叩いたり振ったりしている。
「リーダーは何だと思う?」
ニヤニヤが止まらないエル。失敗しろと言わんばかりだ。
「地下1階なら、出ても毒矢か石つぶてだろう……」
しかし不安が拭いきれないリーダー。
「わがっだ!爆弾だ!」
エレナが声高らかにハリーを見る。
「よし!開けろ!!」
エレナを遠くから指差すハリー。
解除失敗した時の為に距離を取っている。
「でぎだだ!」
やり遂げた顔のエレナ。
コットンはまだ隅っこで震えていた。
「よし、俺が開けるぞ……」
ハリーが緊張した面持ちで木箱に手をかけた。
「昔を思い出すなぁ、リーダー。」
チラリとリーダーを見るエル。
「俺はこんなに酷くなかったぞ……。初々しくはあるがな」
覗き組にも緊張が走る。
2人にはエレナの罠解除が失敗している事は明白だった。
パカッ! ヒュッ! ドゴッ!
ハリーの脇腹に石つぶてがヒットした!
「……!!」
声にならない痛みを抑え、地面でもんどり打つハリー。
「ごめん、まぢがえだ……」
頭をかき、謝るエレナ。
「あーあ、やっぱりだ」
岩陰で笑っているエル。
「おいおい、ビギナーの失敗を笑うなよ……」
やれやれとリーダーがため息をついた。