ボッタ商店
寺院の隣の隣にはボッタ商店と呼ばれる店があった。
武器、防具、アイテム等ダンジョン探索に欠かせない物が何でも置いてあった。
その殆どはダンジョン内の宝箱から手に入れた物であり、リース達が取ってきた物も多数置いてあった。
駆け出し冒険者は大抵ここで装備を整えるのだが、ボッタ商店の価格設定は高い。
こういった店が他に無いために、独占的な商売でやりたい放題となっていた。
少し前に値下げ運動を行った人達が居たが、何故が立て続けに腹が痛くなったり謎の奇病にかかり、いつしか誰も居なくなった。
新たな商店を作ろうとした人も居たが、風の噂では闇に葬られたそうな……。
リース達はボッタ商店で買うことはまず無いし、地下深くで手に入る良い装備は高く買い取って貰えていたので、特には気にしていなかったし、深く介入する気も無かった。
「わからない……」
フェリーが紅い宝石の着いた指輪をじっと眺め、頭を悩ませていた。
「ん、どうした?」
隣で肉を齧っていたエルが不思議そうに見つめる。
「この指輪がいくら鑑定しても何だか分からないんだ……」
フェリーが指輪をエルに手渡す。
ここでは、装備に備わる特殊能力や呪いの有無。
そういったものを鑑定して特定出来ていない状態だと売買出来ない取り決めになっている。
「う〜ん、俺はさっぱりだ!ボッタの所に持ってけば分かるかもよ」
「えー、あそこはあんまり好きじゃなんだよなぁ……」
渋い顔でしかめるフェリー。
「俺も一緒に行ってやるからよ」
残りの肉を頬張り、席を後にする2人。
「よっ、ボッタ」
エルが手を上げ挨拶をした。
「……いらっしゃい」
ボッタ商店の主人ボッタは背が低く、がめつくていかついコソ泥みたいな顔立ちをしていた。
「こいつを見てもらいたいんだが……」
エルが指輪をボッタの前に置いた。
「ほぅ。これは……」
指輪をまじまじと見つめるボッタ。
「ふむ、鑑定料は2500Gだがいいか?」
「フェリー?」
フェリーは渋々2500Gをカウンターに置いた。
「へへ、毎度」
……………………コト
ボッタの鑑定をまじまじと見つめる2人に指輪を置いた音が大きく聞こえた。
「これただの指輪ですわ」
ボッタが笑いながら指輪をカウンターへ戻した。
「……は?」
あっけにとられるフェリー。
「何かあると思ったら、逆に何も無しか。そりゃ分からんわ……」
失笑するエル。
ただの指輪の鑑定に一瞬で2500Gを失ったフェリー。
「ちなみに売ったらいくらで買い取ってくれる?」
エルが好奇心で聞いてみると――
「2500Gかな」
フェリーはその場に崩れ落ちてしまった……。
「あ、おい!しっかりしろ!!」
エルはフェリーを両手に乗せ、揺さぶり起こすがびくともしなかった。
「で、どうするの?」
ボッタが薄気味悪い笑顔でこちらを覗う。
「今日はとりあえず帰るわ……」
指輪をフェリーのバッグへ入れ、そそくさと店を後にするエルだった……。
「噂通りボッタクリ商店だな」
ボソッと呟く。