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ヒーロー記念日

作者: 瀧音静

 記念日。人それぞれにある特別な日。

一番ポピュラーなのは誕生日だろう。身近な人、例えば親。親族。そして彼女や彼氏。

嫁に旦那に息子に娘。一番多い記念日だろう。


 他にも結婚記念日。付き合い始めた日。人によってはもっとあるだろう。

ここで一つ。私の事を話させて欲しい。私だけの記念日。


 「ヒーロー記念日」について。


*


 朝。旦那を仕事に送り出し、日曜日の戦隊シリーズの特撮を息子と一緒に見ていて。

何気なく見たカレンダーの日付で大事な。とても大事な日を思い出した。


 思わず声を上げたせいで、息子が不思議そうに顔を覗き込んでくる。


「ママー? どうしたのー?」

「ごめんね。びっくりさせちゃったね。今日が大事な日だって忘れてたの」

「大事な日ー?」

「そう。とてもとても大事な日よ」


 ママのとっても大事な、ヒーローの日なの。


*


 まだ私が小さかった頃。今ほど治安は良くなくて。

今でも犯罪は毎日のようにあってはいるけれど、昔に比べて圧倒的に無くなった犯罪がある。


 それは「誘拐」。そして身代金の要求。


 小学生の夏だった。

幼馴染の男の子と二人で夏祭りの出店を回っていた時の事だ。

まだ今ほど世間の目は厳しくなく、子供だけで夜でも出歩けた時代。

だからこそ、「誘拐」は多かったのだと思う。

ともかく私は、そのお祭りの帰り道、全く見ず知らずの大人に突然手を引かれて。

車の中に押し込まれた。


 当然泣き喚いたし、抵抗はしたけれど。

まだまだ小さな子供だった私の抵抗など暖簾に腕押し。


 誘拐犯に脅されて、家の電話番号を言わされていた時に、走り出していた車が急ブレーキをかけた。


「どうしたんだ!?」


 私を脅していた犯人が仲間の運転手に怒鳴りながら聞いた。


「ガキが前を動かねぇんだ!」


 その犯人たちが躊躇い無く子供を轢くような人物だったなら、彼はきっと死んでいただろう。

けれど、誘拐はすれども殺人や事故を起こしたくないと、ありがたい事に甘い考えを持っていた犯人は。

男の子を轢く事より、どいて貰う事を選んだようで。


「クソガキ! どけ!!」


 と大きな声で怒鳴り始めた。

その時になって私は、ようやくその車の前に立ち、犯人たちの妨害をしている男の子の姿を確認したのだけれど。

なんとそれは、一緒にお祭りに行った男の子だった。


 少し気が弱く、私と居る時はいつも俯いていた彼が、お祭りで買った、当時の戦隊ヒーローのお面を被って小さな体を大きく広げて車を止めている姿に。


 私はそれまでとは違う涙が出てきたのを今でも鮮明に覚えている。


 結局、この男の子の時間稼ぎと。

大きな声で怒鳴る、という目立つ行為をしてしまった誘拐犯の自滅により。

集まって来た警察に包囲されて、なす術も無くなった誘拐犯たちは身柄を拘束され一件落着となった。


*


「それでそれで? 続きは続きは?」


 スーパーで買い物をしながら、息子がせがんだので思い出話をしていたが、今ので話が終わりでないと気が付くとは、中々侮れない。


 晩御飯の材料として、様々な食材と。

息子が持って来た戦隊ヒーローがCMをしているソーセージを買い。

帰り道、息子と手を繋いで帰りながら、先ほどの話の続きをする。


*


 あの後警察から、簡単に今回の事件の事を聞かれた私は。

泣きっぱなしでろくに話も出来ない状態だったらしいのだが、今回の御手柄である男の子の手だけは放そうとはせず。


 根気よく、そして優しく聞いてくれた警察官が「ありがとうね」と言うくらいには事件の事を話せたらしい。


 その後男の子と共に迎えに来ていた親に連れられて家に戻った。

どうやら男の子の方は、いきなり車の前に飛び出した事をこっぴどく叱られたらしい。

けれど、翌日の学校で緊急の朝礼が行われ、その中で警察からの表彰状を貰った事で、親からもの凄く褒めて貰ったと彼がクラスで話していたのを聞いた。


 その日から、その男の子の気の弱さはすっかりと消えて。

クラスの中でも堂々と存在感を放つ様な子になっていた。


 さらに後から聞いた話であり、自慢するように。

表彰状を貰ったその日は大好物のハンバーグを作って貰った。

と言っていたっけ。


*


 話をしながら、晩御飯の用意をしていたら、玄関のカギが開く音が聞こえた。

どうやらお帰りになったようだ。


「ただいまー。いい匂いだなぁ」

「ふふ、お帰りなさい。あなた。今夜はハンバーグですよ」

「お、いいねぇ。大好物だよ」


 知ってます。だってあなたの為の、記念日なんだもの。

あの日、私を守ってくれた男の子(ヒーロー)は。

今ではみんなを守る、立派な警察官(ヒーロー)になっている。

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