7.帰還
こんばんはです!ブックマークをつけてくださった方が増えていることに気づきニマニマしてしまった卯月です。ありがとうございます!
これからの話で〈『◯◯◯』〉の表記がある場合は念話をしていることになります。よろしくお願いします。
レティシアに乗り五分が経過した。俺の視界に性の勇者と思われるボロボロで至る所に血が滲んでいる黒の燕尾服をきた初老の男と、茜色の美しい長髪をなびかせ、槍を構える美女と間違うかのように整った顔立ちの男が向かい合っていた。
花蓮はというと二人と大体二キロ程度離れ、防御系魔法で強化した岩陰に身を潜めていた。
「さて、どうしたものか....」
俺は目の前の状況を見て思案する。
まず、花蓮を連れ去ることを最優先にするまでは問題ない。ただ、現状を観るに性の勇者はウロボロス相手に長く持ちそうにない。今の俺は念話すら使えないし声を届けるにも間に合わないかもしれない。いや、まて....念話?...!
「レティシア!今から急降下して花蓮を拾ってくれ。出来るだけ速度は維持するように頼む。花蓮の救出が完了次第、念話にてウロボロスに撤退を指示。私の無事と我等の居城に来るように伝えてくれ」
『分かりました!二人ともしっかり掴まっていて下さいね!』
言い終わると同時にレティシアが一気に降下する。上空1000メートルからの垂直降下の為、重力と魔力による推進力が合わさり、音速を軽く超えていた。
ちょっ‼︎ヤバイ!レティシアの奴俺の速度維持って話聞いてなかったんじゃないか⁉︎流石に速度を出し過ぎていると思うんだが...
俺の心配をよそに、瞬く間に地面が近づいて来る。そうして花蓮から約直線で200メートル地点の地面、すれすれで態勢を変え、花蓮に向かって直進する。
「‼︎⁉︎なに⁉︎レティシアさん?...待って!私味方だから!死んじゃうから‼︎止まってよ〜‼︎」
花蓮は両手を広げ、レティシアに味方であると両手を全力で横に振りアピールしているのがよくわかる。しかし、その行動は意味を成さず、そのままの速度で花蓮を前脚で掴み、上空600メートル程度まで急上昇する。
〈『ウロボロス。アレス様は無事です!今貴方が対峙している勇者を殺してはなりません。今より我等の居城に帰還して下さい。アレス様が話があると仰っておりますので』〉
〈『承知した。これより離脱する。』〉
「済まない。この度の戦いはこれ以上続けられなくなった。次に出会った時こそ決着をつけるとしよう。」
念話を終え、人の姿から巨大な蛇の身体に流線型の八目の頭を持ち、身体の上部にある漆黒の翼を広げ、龍の姿をとったウロボロスは言い放つ。対する性の勇者は余りに圧倒的過ぎるウロボロスの存在感に皮脂を滲ませ、冷たい汗が頬を伝い、膝が笑う。
「できれば、もう二度と会いたくはありませんな....正直に申して、貴方を前に立っているのもやっとの状態ですからな...」
生物の本能からくる恐怖を、今までの戦いで身につけた鋼を思わす精神でもって嚙み殺し、やっとの思いで口を開く。ロイドの人生で初めて死を身近に感じた瞬間だった。
「この姿の俺を前に生きているだけでも誇るといい。大概の人間は、俺の瘴気にあてられ、死ぬからな。次は俺も全力を尽くすと誓う。さらばだ」
ロイドは、身体から漏れる瘴気を身に纏い背の翼を大きく広げ、咆哮と伴に飛び立つウロボロスの姿を〈死〉そのものが空を逝くように錯覚する。其れ程に圧倒的な存在感を放っていた。
「どうにか死なずに済みましたな....まずはテペロとジョージを起こさなければ...剣の英雄はこうなることも予測していたのでしょうね...恐ろしい方だ。」
ため息混じりにテペロを観ると装備していた派手な飾りが砕け、光の粒子になり霧散する。それと同時にテペロの傷は完治し、息を吹き返した。それを確認すると、燕尾服の胸ポケットに入れてあった一枚のコインを取り出し、ジョージの胸の前で砕く。瞬く間に傷が癒え、失った腕すら生えてくる姿には、流石のロイドも目を疑った。
「まさか、此れ程とは....剣の英雄から渡されていた。世界に10しかない神器の内の二つの力は伊達ではなかったということですか....」
その呟きを聴く者は居なかったが、仮に人間やエルフの王の耳に入るようなことがあれば、ロイド達、三勇者は処刑されて居た程の宝を使い捨てにしたのだ。
神器の名を〈不死鳥の革鎧〉〈不滅のコイン〉といい、この二つの神器の効果は持ち主に不老の力を与え、死んだ場合、神器の破壊をトリガーとして一度だけ蘇生する。という破格の効果を持つアイテムだった。
一方、その頃アレス達は居城の前に降り立つ。
「なんだか、とても久しぶりに帰った気がするな...」
まだ、ここを出て2日と経っていないにも関わらず、余りに濃過ぎる1日を振り返り、呟いた俺を見て朱葉がクスリと笑う。
「まさか、この短い間に死にかけたのだから無理もないさ。気にするな主人様。暫く休めば晴れて無敵の龍王の誕生になるのだからな!私としては鼻が高いよ。誇っていい」
「アレス様は私達を逃がす為、命がけで戦って下さったことはとても胸が暖かくなります。ただ、もし、次にあのようなことがあれば私も伴に戦います!私だって護られるばかりは嫌なので....」
俺が二人の暖かい言葉に幸せを感じていると、顔を赤くし、未だ目に涙を溜めながらレティシアに殺気をぶつける存在がいた。神龍とでも呼ぶべき存在に昇華した俺ですら、油断していると一瞬怯みかねない程の殺気だった。対してレティシアは歯牙にもかけていないのは、神経が図太いとしか言えない....先程の幸福感を無視し、乾いた笑いが出てしまうのも仕方ないことだろう。
「ねえ、そろそろ僕に謝ってくれてもいいんじゃないかな?レ、ティ、シ、ア、さん?」
花蓮は額に青筋を立てながら笑顔を作るという器用なことをしながらレティシアに話しかける。最も、その笑顔はもはや笑顔とは呼べず、口元がヒクついているのはご愛嬌だ
「あら?どうかなさいましたか?お怒りのようですが....私は怒らせてしまうようなことをしたのでしょうか?」
心底不思議そうに首を傾げ考えるレティシアは、一見わざと花蓮をキレさせようとしているかのように見えるが、残念なことに本気で花蓮が自分に腹を立てている理由がわからないでいた。
「あぁ!分かりましたよ。花蓮さん大丈夫です!空は寒いですからね。多少粗相をしたくらいで気にしてはいけません。確かに少し速度を出し過ぎていたと言えなくもないのですが、緊急でしたし...見た所其れ程漏れなさそうですし大丈夫です!アレス様であれば気にしないと思いますよ?」
「「「「......」」」」
レティシアの余りに残念なフォローに皆沈黙する。フォローを受けた本人の花蓮に関しては顔を伏せ、身体が小刻みに震えていた。よく見ると耳が真っ赤になっていたので、怒りの沸点を過ぎ去ったのではないかと、先の展開を考えると不安で仕方ない。
そんなふうに俺が考えていると花蓮が恐る恐る口を開いた。
「レティシアさん...なんで、僕が...その、漏らしているのに気づいたの?...お、鬼のは匂いはないはずなんだけど....ねぇ...なんで?」
俺はてっきり魔法の一つでもレティシアにブチかますと思っていたのだが、杞憂に終わった様で内心胸をなで下ろす。
「え?.....そ、そうだったのですか...いえ、まさかと思ってなんとなく言ってみたのですけど....聞いた私が言うのもどうかと思いますが...漏らしてしまっていても、正直に言う必要はないのですよ?.....恥ずかしくはありませ....」
〈エクスプロージョン‼︎〉
あらかじめ詠唱済みの戦略級魔法のエクスプロージョンをストックしていたのか、最短詠唱で放たれたそれは、レティシアを中心に轟音と破壊の嵐を巻き起こす。その威力は凄まじく、ただの爆破魔法では一切揺るがない居城の防御結界に亀裂を入れる程のものだった。流石のレティシアも無傷とはいかないはずだ....まぁ、自業自得ではあるのだが.....
「はぁ、はぁ、はぁ....ぼ、僕をバカにして!レティシアさんなんか大嫌いだ‼︎」
元々、龍形態であったレティシアとウロボロスは人化することにより、頭があった場所から離れた位置(龍の胴体部分のあった位置)に姿を現した。会話に苦労する程の距離ではなかったのだが、俺と朱葉、花蓮はギリギリ城の結界内であり、ウロボロスとレティシアは結界の外側にいた。それ故、エクスプロージョンは直撃となり少なくないダメージを負ったはずだ。
ウロボロス.....なんて運のないやつなんだ...昔から不死身だからと、よく死ぬまでレティシアに戦闘訓練させられていたよな......
「...少しはやる様ですね...まぁ今回は流石に私が悪かった様ですし不問にします。...できれば次からは先に言ってくださいね?もし、アレス様に何かあれば....殺しますよ?今は魔力もほとんど無い状態なのですから...」
「ッ‼︎...わ、分かったよ。僕も考えなしに撃っちゃったことは反省してる。...ごめんねアレス...今は魔力使い切っちゃってできないけど、後で地面と結界の修理するから...ほんとにごめん...」
レティシアも反省してるみたいだし、花蓮も...まぁレティシアに最後殺気を向けられて落ち着いたみたいで良かった...と言っていいかわからんが、まぁ余り気にしても仕方ないのでレティシアの横でウェルダンに焼かれた哀れな親友を一瞥し、考えることをやめた。そして、所々火傷しているレティシアに龍闘魔法による時間操作で傷を回復させる。
「まぁ、なんだ。そろそろ皆で上がって食事にしよう。先に伝えた様に話があるからな。食事の最中にでもゆっくり話すつもりだ。そんな訳でレティシア食事の用意を頼めるか?私も少しなら手伝えると思うからさ。」
「⁉︎りょ、料理など私一人で十分です。アレス様のお手を煩わせることになってしまいますし...お身体をもう少し労って下さい。...ただ、もしよろしければ、本当に暇で暇で仕方ないという日がありましたら...一緒にお料理したいです。」
最後の方は聞き取るのに苦労したが思いの外元気な様だ。帰るまでに回復したなけなしの魔力と闘気を使って再生させたかいがあった。ウロボロスにも.....いや、考えないでおこう。どのみち魔力が尽きた...済まないなウロボロス。生き返ったら美味いものをたらふく食べさせてやろう。
そんなやりとりを終え、ウロボロスを含めたアレス達は居城に入り、本当の意味での帰還が叶ったのである。
今回、花蓮の設定を振り返ったのですが、胸を大きくし過ぎたのではないかと頭を抱えてしまいました。これはこれであり!と思ってくださる方がいると信じてこのままいきたいと思います!




