9.休養に行った勇者一行は魔王軍撃退に巻き込まれたようです
あれから数日後にはセイルレーンの近くにやってきていた。
馬車から顔を出して前を見ると、そこには美しい街並みが広がっていた。
「どうですか、ゼロ様。情景都市と呼ばれている理由がこれなんです。外から街を見ても、都市の中から街を見ても、美しい情景が広がっていることから、情景都市セイルレーンと呼ばれるようになったんです」
俺と一緒に顔を出して街をみっていたセリカが言ってきた。
確かにそうだが、ふと思った事があった。
「そういえばなんだけど、イリスはセイルレーンで何か起きたみたいなことを最近聞いたか?」
「いいや、そんなことは聞いていないぞ。もしかしたらこの数日間に何か起きたかもしれないがな」
なんとも言えない……。そう思ってしまった。
「だが、検問は厳しくなっているだろうな。実を言うともう既に魔王軍が進軍を始めていてな、我が国の村の幾つかが既に、占拠されている」
今、すごく重要な事がさらっと出てきた気がするが、検問が強化されているのは確かだろう。
エルメテシアでの事みたいになったら困るだろうしどうしようか。
そんな心配をしていると、後ろから鎧が擦れるような音が大量に響いてきた。
そして、音のした方を見ると見覚えのある紋章が描かれた旗が見えた。
「おい、イリス。後ろからお前の騎士団が来ているんだが…………」
「ゼロ殿、冗談はよしてください。確かに鎧が擦れる音がしますが、我が騎士団がここにいるなどと言う戯言は…………」
イリスも後ろを見て、自分の騎士団がすぐ後ろに来ているのを見て、発言を止めた。
『そこの馬車、道を開けよ!我らはエルメテシア騎士団である。我らの要求を承諾しない場合は致し方なく捕らえる可能性がある。素早く道を開けよ!』
…………どうやら当人らは商人の馬車と勘違いして大口を叩いたらしい。
勿論だが、それを聞いてイリスが黙っているはずはなかった。
「トモエ殿。少し馬車を止めてもらってはくれないだろうか」
概ね予想通りの事になった。
トモエは馬車を止め、イリスが馬車から降りた。
「なんだ、我らの邪魔をすると言うのか?まさかとは思わんが貴様魔王軍の…………」
「随分といい度胸をしているな、アルトリエ」
そうイリスが発した瞬間、騎士団員全員が凍り付いた。
「貴様らは商人の馬車とでも勘違いしたようだが、悪いな。この馬車は勇者御一行が乗られている馬車だ」
その時のイリスにはこの数日間感じられなかった威厳があった。
「なっ、イリス団長⁉︎それに勇者御一行様が乗られている馬車だと!これは失礼致しました」
「分かったのなら良し。ゼロ殿はエルメテシアでの事を起こしたくないようだ。目的地は同じだ。団長の命により、我らに同行せよ」
数分後、話がついたらしく、イリスが戻ってきた。
「同行するように話をつけてきた。これであの時のような事にはならない」
そう聞いた俺は任せるんじゃなかったと思った。
イリスは目立たないと思ったようだが、実は結構目立つ。
逆効果になりそうで頭が痛い。
「イリスさん、それは逆に目立ってしまう気がしますけど………。ゼロ様はただあの時みたいに騒動にならなければいいだけなんですよ。騎士団が魔王軍を撃退しに来るだけでも騒動になるのに、そこに勇者様が入ったとなればさらに騒動になると思うんですけど………」
よく言ったとセリカに言いたくなった。
「言われてみれば、確かに目立ってしまうではないか。すまない、ゼロ殿」
どうやら本人も気付いたらしい。
「あとアルトリエに聞いた話だが、国王陛下に『勇者殿と合流した場合、共闘し向かい撃つように』と命じられたようだ」
………………休養で来たはずなのになぜこうなった。
俺はそう思ってしまった。
こんにちは、澪です。
1月分の投稿が2月になりそうと言ったな、あれは嘘だ。
それでは次回をお楽しみに!