6.勇者は前勇者の仲間の娘から剣術を学ぶようです
あの後、早速修練に誘われたが、疲れているという理由をつけて修練場を後にした。
長旅で疲れているのに剣術の修練を始めても、先に疲れがきて倒れてしまうだろうし、何より効率が悪い。
そんな訳で、セリカと合流するために教会に向かっている。
まあ、勇者一行が街に来ているというのが広まっているらしく、街を歩いていると頻繁に話しかけられた。
特に商売人が話しかけてきた。
勇者お墨付きの店にしたいのだろうか、売り物を買ってもらおうと、セールスみたいに突っかかってきたり、どこぞやの異世界の教団みたいに進めてきたりと、色々とカオスなことになっていた。
途中で買い物をしていたトモエと合流し、裏道から行こうと言ったのだが、裏道は危ないと反対され、教会についた時には散々なことになっていた。
「そういえばなのですが、セリカ様から伝言を授かっております。『教会の中で待っていてください』とのことです」
そう言われた俺はトモエに礼を言い、教会の中に入って行った。
入った先で目に入ったのが、祭壇で祈りを捧げるセリカの姿だった。
ステンドグラスから漏れる光が、彼女をいつもより神々しく、そして美しく見せていた。
そんなセリカの姿に、俺は見惚れていた。
でも、この時の俺は気付きもしなかった。
明日から始まる剣術の修練が、他人から見たらまさに地獄だということを。
数分後、祈りを終えたらしいセリカは、こちらに駆け寄ってきた。
「ゼロ様、お会いできたんですか?」
「いいや、セリカが言う人には会えなかった。その代わりに、その娘さんには会えた」
とりあえず、セリカに経緯を話すと、納得したように頷いた。
「そうなんですか、まさかあの人が亡くなっていたなんて………。でも、娘さん…………イリスさんが騎士団を継いでいたんですね。とりあえず、王都は大丈夫ですね。それだけでも知れて安心です」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんですよ。それよりも良かったですね、剣術を教えてもらえることになって」
「ああ、そうだな。まあ、いきなり修練場にと誘われたから、それは流石に断ったんだけどな」
「それもそうですよね。2、3日ほど馬車で移動していましたし、断るのは正しい判断です」
「まあ、そうだな」
俺とセリカはそんな話をしながら宿へと向かい、夜を過ごした」
その翌日、昨日言われた時間になったので、修練場に顔を出していた。
「おお!来てくれたか勇者殿。さあ早速修練を始めよう!」
顔を出したのはいいが、イリスが目を輝かさせて待っていた。
「一ついいか」
「なんだ?くだらない事ならやめてくれよ」
「勇者殿って呼ぶのをやめてくれないかな。国王の前では言えなかったけど、俺は勇者なんて柄じゃない。名前で呼んでくれると嬉しい」
あと、勇者なんて言われると変な輩がついて来そうだしな。
そう心の中で呟いていた。
「承知した。…………それでは、ゼッ、ゼロ殿。修練を始めようか」
あれ、なんでこの人は顔を赤くしているんだ?
どうやら、まだ俺にはわからないことが多いようだ。
そう、心の中で確信した。
「聞くのを忘れていたが、ゼロ殿は剣を握った経験は?」
「いいや、ない。そもそも、俺がいた世界は戦争がない、平和な世界だったから」
世間は、最悪だったけどな…………。
「そうだったんですか………。以外にも我々の理想の世界なのだな。そんな世界を目指すために、我々は日々戦っている。…………話が過ぎましたね、それでは始めましょう」
そして、修練1日目が始まった。
それから数時間の間、地獄が続いた。
走り込みと筋トレを数セットずつ、それを2、3時間続けてやった。
引きこもっていた時、暇になることがあるので同じようなことをやっていたが、それ以上だった。
なんだか、基礎トレやっといてよかったとその時思った。
「それではゼロ殿。剣術の修練を始めますか」
その言葉からが第二の地獄だった。
イリス曰く、筋はいいらしい。
飲み込みが早いとも言われたが、正直結構きつい。
こうして、この繰り返しでこの1日が終わった。
こんにちは、澪です。
いきなりですが、もう一つシリーズを始めます。
それでは、また次回。