引き出しを開けた私。
私は、私。
私以外の人は他人。
どんなに近しい人であったとしても他人……。それが私の大好きなおばあちゃん、おじいちゃんだったとしても。
私には人が……、私以外の人が何を考えているかなんてわからないし、逆に私が何を考えているか私以外の他の人にはわからない。
そんなのは当たり前。
でも……、でも、人が自分の事を想ってくれているって確信できた時は心がじんわりと温かくなって嬉しくなってほっとする。
おばあちゃんの一つ、一つの言葉を思い出すたびに心の中にあったわだかまりが解けていく。
私は泣き止んでは泣いて、泣き止んでは泣いてを繰り返した。
こんなにも私の事を想ってくれるひとがいる。それなのに私はその人達に迷惑をかけている……。
学校に行くのは辛いし怖い……。
でも……、でも、行かなくちゃっ。って思った。
布団から出た私は床に転がっていたティッシュの箱を手に取り、ティッシュで涙を拭いた時だった。突然、下から大きな声が聞こえた。
『大丈夫ですか! 大丈夫ですか、西野さん!!』
担任の先生の声だった……。
その声を聞いた瞬間、身体が一瞬にして凍りついた。
私は勢いよく部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。居間の扉を開けた瞬間、私の口が無意識に開く。声にならない声がわずかな息と共に口から出た。
私が見たのは床に倒れているおばあちゃんの姿だった……。
先生が何度も話かけているがおばあちゃんは先生の言葉に何一つ反応することはない……。
「おばあちゃん……。おばあぁぁぁちゃぁぁんん!!」
膝から床に崩れ落ちた私の目から涙が流れ始めた。
いなくなってしまったお父さんとお母さん。
お父さんとお母さんが帰ってこないってわかった時のあの感覚が蘇る。
神様はこの世にはいない……。
それでも私は神様に願う。
神様……。お願いです。もう、私から大切な人を奪わないでください!! 心の底からそう願った。でもその願いとは裏腹に先生は心臓マッサージを始める。
「おばあちゃんしだだいでー!!」
私が泣き叫んだ瞬間―。「西野!! お前が諦めるなー!!」先生の怒鳴り声が部屋の中に響き渡った。
先生の怒鳴り声に私の身体は一瞬ビクついた。先生が私に顔を向け「お前が諦めてどうする。おばあさんはまだ助かる!! だから西野、お前は救急車を呼ぶんだ!」
先生の言葉に私は我に返った。
そうだ……。まだおばあちゃんは救えるんだッ!
私はTシャツの胸元で涙を拭いて立ち上がり居間にある電話へと足を踏み出した。
受話器をとった私はダイヤルを押した。
「――――ッ。はい、消防119です。火事ですか? 救急ですか?」
今、私が慌てていてもおばあちゃんは助かることはない。私は一呼吸置いて「救急です」と受話器に向かって話した―。
しばらくして到着する救急車におばあちゃんは乗せられた。
先生は私に「おじいさんに連絡しなさい。私はおばあさんに付き添うから」そう言っておばあちゃんの乗せられた救急車に乗り込んだ。
そして救急車は病院へと向かった―。
「おじいちゃん……、あのね……、」
受話器を置いた私は居間を出て、ゆっくりと階段を上っていく。
私の話を聞いたおじいちゃんの声に生気はなくしわがれていた……。
部屋に戻った私は机の引き出しを開けた……。