私の家族。
私は右手に掃除機、左手にはゴミが目いっぱい入った袋を持ちながら階段を下りていく。
引きこもりニート(まだ一応中学生だけど……)にはこの両手に持った荷は重た過ぎる。身体を動かすのは割と好きだったし、小学生の頃は男子達に混じってサッカーとかドッジボールとか色々と遊んでいた私だけどお父さんとお母さんがいなくなってからは外で遊ぶこともなくなり、今ではこの通り、体力は無いにも等しい状態になっていった。だから私の腕は今現在、プルプル震えている。多分、今の苦悶をうかべているであろう自分の顔をあの禿げオヤジに見られたら笑われるに違いない……。あの、人を小馬鹿にしたような笑いが頭に浮かんだ瞬間、猛烈に腹がたった。そんなことを考えている内に階下の床に足がついていた。私は持っていた二つの重荷を床に置いた。すると何か妙な違和感を感じた。とても嫌な違和感……。私は玄関まで歩いていく。
「…………」
私の予想は見事に的中していた。
そこにはおばあちゃんの靴とあともう一足。私の知らない靴が置いてあった。黒い革靴……。容易に想像がつく。私はゆっくりと居間へと歩き出した。
居間の扉越しから男の人の話声が聞こえてくる。聞いた覚えのある声が聞こえてきた―。
「あのね―、西野さん。何度も言いますがね、未来さんを学校に通わせなくちゃだめですよ。特にこれといった問題があるわけじゃない。いじめがあるわけでもなし……。そりゃあね、ご両親が亡くなってしまったショックはあるかもしれません。でもね、このままじゃいけないと思うんですよね僕は。今後、未来さんがね、成長して成人して大人になってからもこの調子で嫌なことから逃げる人間になったら西野さん、いやでしょ? ちゃんとお孫さんを育ててもらわないと学校側からしても困るんですよ」
担任の教師の言葉は私にとっては大人の世界の言葉にしか聞こえなかった。
「先生の仰ることはわかっています……」
「じゃあ……」
「先生、最後まで私の話を聞いて下さい!」
「…………」
「未来ちゃんには未来ちゃんの人生があるんです。先生はあの子のことをどれくらいご存知なんですか? あの子はとてもいい子なんです。とても優しい子なんです。思いやりがある子なんです。今は未来ちゃんにとってとても苦しい時なんです。そんな時に大人達があれやこれや言うのは私は違うと思うんです。私は未来ちゃんのことを信じています。だから私があの子にとやかく言うつもりはありません。あの子が辛そうにしている時に手をさしのべてあげるだけです。私はあの子が少しでも前を向いて幸せな人生を歩んでくれればいいんです。」
おばあちゃんの私に対する気持ちの言葉……。
いつもいつも優しくしてくれるおばあちゃん。いつもは穏やかなおばあちゃんが私のために先生に強い口調を向けている。
おばあちゃんが私の事をそんな風に思ってくれていたなんて思ってもみなかった。ううん……。私がおばあちゃん達から遠ざかろうとしてたから見えなかっただけなのかもしれないけど……。
私の心にはおばあちゃんの言葉が本当に温かくて……。
おばあちゃんの声を聴いているうちにいつの間にかぽろぽろ涙が零れだした。零れた涙は次第に目から溢れ出してくる。
私は嗚咽が漏れそうになるのを必死に堪え急いで部屋に戻った。そして私は一目散に走り、布団を被って思いっきり泣いた。
私には味方はいないのだと思っていた……。思いこんでいた……。
おばあちゃんやおじいちゃんだってホントは私のことなんて迷惑なんだと……、そう思っていた。
だからなのかもしれない……。本当に味方をしてくれる人が身近にいてくれたことに安心したのかもしれない……。嬉しかったのかもしれない。
私は今のこの気持ちを幸せに思う……。