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変わっていく私。

 あの後、大西さんは笑顔になり、またな、お嬢ちゃんって言って姿を消した。その時の大西さんの表情は変態オヤジの顔ではなく、なんとなくだけどお父さんが笑った時のような優しい笑顔に見えた。


 自分の部屋に戻った私は長い間点けていなかった部屋の明かりを点けた。それは私の意図したことではなく、私は無意識に明かりを点けていることに気がついた。ぼーとしていた所為もあるかもしれない。それでも普段では絶対にありえない行動だったため私は驚いた。異変はそれだけではない。何だか身体がほわほわする……、違うな、何て言うんだろ……。何だか胸の奥がジーンっと温かくなる気持ち……。


 今朝、おじいちゃんとおばあちゃんとご飯を食べた時もこんな気持ちになった。今、何でこんな気持ちになったのかよくわからない。ただ、今抱いている気持ちは嫌な気持ちではなかった……。しかしそんな気持ちは一瞬にして崩壊する。


 それは照明の眩い光に照らされた自分の部屋が視界に入ったからだった……。

 

 数年、カーテンを閉め切り、部屋の明かりを消していたこともあるがここまでとは思わなかった……。

 

 部屋の状態なんか気にしていなかった。ううん、気にならなかったっていうのが一番の理由。

 

 私の部屋は散らかっていた……。この状態からして散らかっているという可愛い表現はふさわしくないかもしれない。これはもはやゴミ溜め部屋だった……。

 

 片付けるかっ……。私は自分の部屋を片付けることを決意した。


 まずはゴミ袋と掃除機を確保しなければならない……。


 おばあちゃんがさっき帰ってきた。だからおばあちゃんが居間にいることはわかっている。


 昨日までおじいちゃんとおばあちゃんになるべく顔を合わせないようにしていた私。

 

 そんな私に掃除をするからと言ってゴミ袋をもらい、掃除機を貸してもらうことなんてできるだろうか、いやできる訳がない! ハードルが高過ぎる。

 

 それに自分の部屋がこんな状態になっていることを知られたらと思うと想像しただけでゾッとする。

 

 恥ずかしい所じゃないよ!!

 

 私はゴミが散らばった床に頭を抱えながらのたうち回った。

 

 しかし現状を打破するにはやるしかない、やるしかないのだ……。私は床から立ち上がると自分の部屋を飛び出した―。


 階段を降りて左側、廊下を挟んだ先に見える居間の扉。私は緊張した面持ちで扉を開いた―。

 

 ……が居間には誰もいなかった。おばあちゃんはトイレにいるのか寝室いるのかどこにいるのか私にはわからない。だけど私にとってはラッキーな誤算だった。

 

 台所から苦労してゴミ袋を見つけ出し、次に掃除機の探索を始める。居間の至る所を隈無く探していくが掃除機はまだ見つからない。

 

 早くしないとおばあちゃんが戻ってきちゃう……。そう思った矢先―。


「……未来ちゃんどうしたの?」

 

 おばあちゃんが居間の扉越しに立っていた。

 

 咄嗟に左手に持っていたゴミ袋を背中の後ろに隠す私。おばあちゃんが私に向かって歩いてくる。

 

 恥ずかしい気持ちが自分の中で再び沸き上がる。私は居てもたってもいられなくなり視線を落とし、フローリングの床を見つめた。


「未来ちゃん、髪の毛がボサボサよ? あらゴミまでついてる」

 

 向かいに立ったおばあちゃんは私の髪についたゴミを取り、のたうち回った時、跳ねたであろう私の髪の毛を整えた。


「それで未来ちゃん。何を探してたの?」


「………………」


 掃除機と答えればすぐ済むはずなのに緊張と恥ずかしさの所為で私の口は動かない。


「あっ!」


 急に声を発したおばあちゃんが居間を飛び出していく。しばらくして戻ってきたおばあちゃんは掃除機を持ってきた。


「未来ちゃんの探し物はきっとこれでしょ?」

 

 おばあちゃんの優しく問いかける言葉に私は何も言わず首を縦に振った。


「はい……」おばあちゃんは私に掃除機を手渡し、「お掃除が終わったらお風呂に入りなさいね」って柔らかい声で私にそう伝えた。

 

 おばあちゃんの言葉にうなづき掃除機を手にした私は自分の部屋へと戻った。

 

 部屋の扉を閉めた私は大きく緊張の吐息を吐いた。

 

 よしっ! 私は早速部屋の片づけに取り掛かった―。

 

 床に転がっているごみなどをゴミ袋に入れていき、テレビのリモコンやスマホの充電器、本などを所定の場所に戻した後、床に転がっていたシャーペンとノートを机の引き出しにしまおうと引き出しを開けた時、引き出しにしまってあったカッターナイフが目に入った。

 

 大西さんに出会ってから不思議とこのカッターナイフを使いたいという衝動はなくなったように思える。

 

 あれだけ人生を悲観して死にたいと思っていた自分だけど今は不思議とその気持ちはない……ように思えた。

 

 とても……、とても不思議な感じ。

 

 大西さんに出会って変わったことはそれだけじゃない。

 

 おじいちゃんとおばあちゃんを今まで避けていたのに今は二人と話したい、二人と一緒にいたいていう感情が芽生えたこと。


 大西さん……。禿げ頭で変態で……時折優しい顔をする変なオヤジ。大西さんに出会ってからずっと大西さんのことを考えているような気がした。考えているというよりも頭から離れないって言ったほうが正しいかもしれないけど。


 あらかた片づけは終わったかな……。


 最後に掃除機を掛けた私は掃除機といっぱいになったゴミ袋を持って部屋を出た―。

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